労働力人口の減少と求職者の価値観の多様化が進む現代において、企業が優秀な人材を獲得するためには、従来の採用手法だけでは不十分になりつつあります。
テキストと静止画中心の求人情報では伝えきれない企業の魅力やリアルな雰囲気を伝える手段として、「採用動画」の活用が急速に広まっています。
本記事では、採用動画の現状と、YouTubeやTikTokなど主要な動画プラットフォームでの活用事例を具体的に紹介します。さらに、動画採用が企業にもたらす効果や留意点を詳細に分析し、まだ動画採用に踏み出せていない企業が何をどのように始めれば採用を成功させられるのか、実践的なステップを提言します。
動画採用の現状と広がり
動画採用とは、企業が採用活動において動画コンテンツを活用する手法全般を指します。企業紹介、社員インタビュー、オフィスツアー、1日の業務密着など、様々な形式で動画が制作されています。
動画採用が普及する背景
スマートフォンの普及とSNSの日常的な利用により、若年層を中心に動画コンテンツの視聴は当たり前となりました。特にZ世代と呼ばれる現在の新卒・若手層は、動画を通じて情報を収集し、共感を形成する傾向が強く、企業の採用活動においても動画の重要性が高まっています。
また、オンラインでの採用活動が浸透したことで、遠隔地の求職者にも企業の雰囲気をリアルに伝える手段として、動画のニーズが増大しています。
採用動画の導入状況と効果
株式会社学情の「20代の仕事観・転職意識に関する調査」(2023年)によると、「動画を見て応募意欲が高まった経験がある」と回答した20代は約7割に上るとされています。また、Indeed Japanの調査(2021年)では、採用プロセスにオンライン化(リモート面接、動画選考など)を導入した企業の75.9%が「応募者の増加」に成果を感じていると回答しています。
これにより、採用動画の導入は単なるトレンドではなく、具体的な採用効果を生み出す有効な手段として認知されつつあります。
※本グラフのデータは、関連調査結果を基に作成した概念図であり、実際の数値は各調査レポートを参照ください。
主要プラットフォームと活用事例
採用動画は、ターゲット層や伝えたい内容に応じて様々なプラットフォームで活用されています。
YouTube – 詳細な企業理解とブランド構築
YouTubeは、企業の採用チャンネルとして最も広く活用されています。長尺の動画を公開できるため、企業の歴史やビジョン、事業内容の詳細、福利厚生、キャリアパスなどを深く伝えることができます。
社員の1日密着ドキュメンタリー、座談会、オフィスツアー、部門紹介など、多角的な視点から企業を「見える化」することで、求職者の企業理解を深め、入社後のミスマッチを軽減します。ブランドイメージの構築にも有効です。
(事例: 大手IT企業が開発チームの働き方やプロジェクトの進捗を定期的に動画で公開し、技術系人材からの応募を増加。新卒採用説明会の一部を動画コンテンツ化し、繰り返し視聴できるようにしている企業も多い。)
YouTube活用 – 成功と失敗のポイント
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成功事例 – ストーリー性のあるVlog形式
社員のリアルな日常や、プロジェクトの裏側をVlog(ビデオブログ)形式で公開。編集も凝りすぎず、手作り感を出すことで親近感を醸成。例えば、若手社員が「入社1年目の挑戦」として、失敗談も含めて成長過程を語る動画は、多くの共感と応募に繋がった。(例: Web制作会社A社) -
失敗事例 – 一方的な企業説明に終始
企業のトップや人事担当者が、資料を読み上げるだけの「説明会動画」をそのまま公開。視聴者の顔が見えないオンライン説明会のような形式で、一方的な情報発信に終始したため、若年層の視聴者が途中で離脱。コメントもほとんどなく、エンゲージメントが得られなかった。(例: 某メーカーB社)
TikTok – 若年層へのリーチと親しみやすさ
TikTokは、特に10代後半から20代の若年層へのリーチに強みを発揮します。短尺でテンポの良い動画が主流であり、社員の日常の様子、仕事の面白さの一コマ、会社のユニークな文化、カジュアルなQ&Aなどを親しみやすい形で発信できます。エンゲージメントの高いコンテンツは瞬く間に拡散され、これまで接点がなかった潜在層にリーチできる可能性があります。
(事例: アパレル企業が社員によるコーディネート紹介動画で、店舗の雰囲気を伝えつつ、そのまま求人応募に繋がる導線を設置。飲食チェーンが厨房の裏側や休憩時間の様子をコミカルに紹介し、若手からの応募が増加。)
TikTok活用 – 成功と失敗のポイント
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成功事例 – 「あるある」ネタで共感を呼ぶ
企業の若手社員が、職種や業界の「あるある」ネタを流行の音源やエフェクトを使ってコミカルに表現。視聴者からの「わかる!」というコメントを多数集め、企業の親しみやすい雰囲気を効果的に伝えた。採用サイトへの導線も明確にし、多くの応募に繋がった。(例: 介護サービスC社) -
失敗事例 – 企業の「お堅い」イメージを払拭できず
企業の広報担当者が、流行のダンス動画を真似てみたものの、社員の表情が硬く、全体的に「やらされ感」が滲み出てしまった。企業の本来のイメージと動画の内容が乖離し、かえって不信感を与えてしまった。(例: 某金融機関D社)
その他の動画プラットフォームと活用方法
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Instagramリール/ストーリーズ
写真と動画を組み合わせたビジュアル重視のプラットフォーム。会社のイベントや日常の瞬間を切り取り、共感を呼ぶコンテンツで採用ブランディングに活用されます。 -
X(旧Twitter)動画
速報性や拡散性に優れており、採用イベントの告知、社員からのメッセージ、採用に関する最新情報などを短尺動画で発信し、エンゲージメントを高めます。 -
採用特化型動画サービス/Web会社説明会動画
就職情報サイトが提供する動画サービスや、専用のWeb会社説明会プラットフォームを活用する企業も増えています。動画選考(動画面接)を導入する企業も存在し、初期スクリーニングの効率化や、求職者の多角的な評価に役立てています。
採用動画導入のメリットと留意点
採用動画は多くのメリットをもたらす一方で、その運用には注意すべき点も存在します。
採用動画の主なメリット
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圧倒的なリーチと接触回数の増加
動画コンテンツはテキストや静止画に比べて、より多くの求職者の目に留まりやすく、SNSでのシェアなどにより爆発的に拡散される可能性があります。一般的な求人サイトが提供する情報量に比べ、動画は約5,000倍以上の情報量を伝えられるとも言われ、短時間で深い企業理解を促すことが可能です。これにより、これまでリーチできなかった潜在層にもアプローチでき、企業の露出機会と求職者との接触回数を大幅に増やします。 -
文字では伝わらない「リアル」の可視化とミスマッチ軽減
企業の雰囲気、社員の表情や声、働く環境のリアルな空気感、チームワークや社内の活気など、文字情報だけでは伝わりにくい五感に訴える情報を動画で伝えることができます。これにより、求職者は入社後のイメージを具体的に持ちやすくなり、企業とのミスマッチを大幅に軽減し、結果的に早期離職の防止に繋がります。 -
応募率・採用ブランディングの向上
視覚的訴求力が高く、求職者の興味を引きやすいため、結果的に応募数の増加に繋がります。また、動画を通じて企業の魅力を効果的に発信することで、採用ブランドイメージを強化し、企業としての魅力を高めます。
採用動画導入の主な留意点
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制作コストとリソース
動画制作には、企画、撮影、編集に時間と費用がかかります。プロに外注する場合は数十万円から数百万円の費用がかかることもあります。内製する場合でも、企画力や編集スキルを持った人材と時間が必要です。 -
動画の品質と内容
低品質な動画はかえって企業のイメージを損ねる可能性があります。また、表面的な情報だけでなく、企業のリアルな雰囲気や社員の声など、求職者が本当に知りたい情報を盛り込む必要があります。 -
継続的な運用と管理
一度動画を制作したら終わりではなく、定期的な更新や効果測定、改善が必要です。特にSNSでは、トレンドに合わせたコンテンツを継続的に発信するための運用体制が求められます。 -
炎上リスクと情報管理
SNSでの動画公開は、企業の意図しない形で拡散されたり、コメント欄でネガティブな意見が寄せられたりする炎上リスクも伴います。情報の公開範囲や内容には細心の注意を払い、適切な管理体制が必要です。
採用動画を始めるためのステップ
まだ採用動画を始めていない企業でも、以下のステップを踏むことで効果的に動画採用を導入できます。
1. 目的とターゲットを明確にする
まず、「誰に(ターゲット層)」「何を(伝えたいメッセージ)」「どうなってほしいか(動画で達成したい目的)」を具体的に設定します。例えば、「20代のITエンジニアに、当社の技術力の高さを伝え、応募を促したい」といった具合です。これにより、動画の内容やトーン、配信プラットフォームが定まります。
(具体例: 新卒向けには会社の未来や成長性を、中途向けには具体的な業務内容やキャリアパスを強調する)
2. 企画・構成を練り、動画の種類を決める
設定した目的とターゲットに基づき、どのような動画を制作するか具体的に企画します。動画の種類は多岐にわたります。
- 企業紹介動画: 会社の全体像やビジョン、事業内容を伝える。
- 職種紹介動画: 特定の職種の具体的な業務内容、1日の流れを伝える。
- 社員インタビュー動画: 実際に働く社員の声を通じて、職場の雰囲気ややりがいを伝える。
- オフィスツアー動画: 働く環境や設備の魅力を伝える。
- Q&A動画: 求職者からのよくある質問に社員が答える。
動画のシナリオや絵コンテを作成し、メッセージが効果的に伝わるように工夫しましょう。 (具体例: 職種紹介動画では、実際に使用するツールやシステムを映し、リアリティを追求する)
3. 制作体制と予算を決定する – 内製か外注か
動画制作の費用は、内容や品質、尺によって大きく異なります。
- 内製する場合: スマートフォンや簡易なカメラ、無料/安価な編集ソフトを活用すれば、費用を抑えられます。社員が自ら出演することで、リアルな雰囲気も伝わりやすいです。ただし、企画力や編集スキル、運用リソースが必要です。
- 外注する場合: 専門の動画制作会社に依頼すれば、高品質な動画を制作できます。企画から撮影、編集まで一貫して任せられるため、自社のリソースが少ない場合に有効です。費用は数十万円から数百万円と幅広く、内容によって大きく変動します。
まずは低コストで内製から始め、効果を見ながら外注を検討するなど、段階的なアプローチも有効です。 (具体例: まずはTikTokで短尺の社員紹介動画をスマホで制作し、反応を見てYouTubeでの長尺動画を検討する)
4. プラットフォームを選び、効果的に配信する
制作した動画をどこで公開するかが重要です。ターゲット層が日常的に利用するプラットフォームを選び、それぞれの特性に合わせた配信戦略を立てましょう。自社の採用サイトへの埋め込み、YouTubeチャンネルでの公開、TikTokやInstagramなどSNSでの拡散が主な方法です。求人媒体や人材紹介サービスが提供する動画掲載枠の活用も検討しましょう。
(具体例: YouTubeにメイン動画をアップし、その切り抜きをTikTokやInstagramリールで配信して導線を引く)
5. 効果測定と継続的な改善を行う
動画を公開したら終わりではありません。再生回数、視聴維持率、エンゲージメント(コメント、いいね)、そして動画経由での応募数や採用単価などを定期的に測定し、効果を検証しましょう。A/Bテストを実施したり、求職者からのフィードバックを収集したりして、より効果的な動画コンテンツ制作と配信方法を追求していくPDCAサイクルが重要です。
(具体例: YouTubeアナリティクスで視聴者の離脱ポイントを分析し、次回動画の構成改善に活かす)
採用成功へのロードマップ
情報過多の時代において、求職者は企業からの一方的な情報ではなく、よりリアルで、共感を呼ぶ情報を求めています。採用動画は、このニーズに応える強力なツールであり、企業の採用活動においてその重要性は増すばかりです。
「動画制作は難しそう」「費用がかかりそう」と感じるかもしれませんが、まずはできる範囲から小さく始め、効果検証と改善を繰り返すことが成功への鍵となります。動画を通じて企業の魅力を最大限に発信し、求職者との新たな出会いを創出しましょう。
このレポートを読んだあなたが、採用動画を活用して採用を成功させるためのロードマップとして、以下の現状と課題、そして具体的な対策を再確認してください。
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現状 – 動画コンテンツの日常化と求職者の高い動画ニーズ
Z世代を中心に、求職者は動画で企業情報を収集し、応募意欲を高める傾向が顕著。リモート採用の普及も動画活用の追い風となっている。 -
課題 – 制作ノウハウと運用リソース不足、炎上リスク
動画制作の専門知識やリソースが不足している企業が多く、制作コストも懸念材料。動画の品質維持や継続的な運用、SNSでの炎上リスクへの対応も課題となる。 -
対策 – 戦略的な企画と多角的な発信、PDCAサイクル
目的とターゲットを明確にし、魅力的な企画・構成で動画を制作する。内製・外注を適切に判断し、YouTube、TikTokなど複数のプラットフォームで効果的に配信する。動画公開後は効果測定を徹底し、継続的に改善を行う。
採用動画は、企業の採用活動を次のステージへと引き上げるための強力な武器です。
「動く情報」で企業の魅力を余すことなく伝え、求職者の心に響くアプローチをすることで、労働力不足時代においても、自社が選ばれる存在となるでしょう。