「女性活躍を推進したいが、応募が集まらない」「女性管理職が育たない」多くの企業が抱えるこの課題。解決のヒントは、既に女性が生き生きと働き、評価されている業界や地域にあります。成功例と停滞例を対比させ、自社の採用力強化に繋げる方法を解説します。
データで見る – 女性が活躍する業界、停滞する業界
まず、どの業界で女性が活躍しているのか、またその逆はどこなのか、公的なデータから見てみましょう。(※総務省「労働力調査」、帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査」などを基にした傾向)
産業別「女性労働者」の割合ランキング
順位 | 産業 | 女性比率(目安) |
---|---|---|
1位 | 医療、福祉 | 約75% |
2位 | 宿泊業、飲食サービス業 | 約60% |
3位 | 生活関連サービス業、娯楽業 | 約55% |
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ワースト3位 | 運輸業、郵便業 | 約23% |
ワースト2位 | 電気・ガス・水道業 | 約20% |
ワースト1位 | 建設業 | 約17% |
産業別「女性管理職」の比率ランキング
順位 | 産業 | 女性管理職比率(目安) |
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1位 | 医療、福祉 | 約19% |
2位 | 小売業 | 約18% |
3位 | 不動産業、物品賃貸業 | 約15% |
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ワースト3位 | 製造業 | 約8.5% |
ワースト2位 | 運輸・倉庫業 | 約8% |
ワースト1位 | 建設業 | 約7.5% |
【考察】なぜ、これほどまでに差が生まれるのか?
これらのランキングからは、業界ごとの構造的な特徴が浮かび上がってきます。
なぜ「医療・福祉」は女性が活躍しやすいのか?
この業界がトップである理由は、第一に「専門資格」に基づいた評価制度が確立されている点にあります。看護師や介護福祉士といった国家資格は、性別や年齢に関係なく、その人のスキルと経験を客観的に証明します。そのため、キャリアパスが明確で、ライフイベントによる離職を経ても、資格を武器に復職しやすいのです。また、深刻な人手不足を背景に、多様な勤務形態(時短、夜勤専従など)が整備されていることも、女性が働き続ける上で大きなアドバンテージとなっています。
なぜ「建設・運輸」などは女性の活躍が遅れているのか?
対照的に、比率が低い業界に共通して見られるのは、「長時間労働を前提とした、男性中心の旧来型カルチャー」です。これらの業界では、スキルや効率性よりも「現場に長くいること」「体力があること」が評価されがちな風潮が根強く残っています。また、意思決定が飲み会などのインフォーマルな場で行われることも多く、時間的制約のある女性がネットワークに入り込み、キャリアを築いていく上で構造的な障壁が存在しています。結果として、ロールモデルとなる女性管理職が育たず、若手女性社員が将来のキャリアを描きにくいという悪循環に陥っているのです。
なぜこの地域は女性が働きやすいのか?- 成功例と停滞例の対比
業界だけでなく、地域にもヒントがあります。長年、女性の就業率で全国トップクラスを維持している福井県と、対照的な地域の例を比較します。
成功例:福井県
福井県が高い女性就業率を誇る理由は、単一ではありません。待機児童がほぼゼロという全国屈指の子育て支援インフラ、祖父母が育児を助ける三世代同居文化、そして何より女性の就労が「当たり前」という社会全体の意識。これら複数の要因が噛み合うことで、女性がキャリアを諦めずに働き続けられる土壌が形成されています。
対照的な地域の傾向
一方で、女性の就業率が伸び悩む地域では、福井県とは逆の課題が見られます。例えば、待機児童の問題が依然として存在したり、地域経済を支える主要産業が建設業や製造業中心で、女性が活躍しやすい雇用の受け皿が少なかったりする傾向です。また、「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という伝統的な価値観が根強く残っていることも、女性の就労継続の心理的な障壁となっている側面も指摘されています。
女性が働き、評価される「仕組み」の作り方
これらの先進事例と停滞事例の対比から、企業が今すぐ取り組むべき3つの仕組み作りが見えてきます。
1. 時間ではなく「成果」で評価する制度を導入する
最も重要なのは、長時間労働を評価する文化からの脱却です。子育てや介護などで時間に制約のある社員でも、公平に評価される仕組みを構築しましょう。具体的には、個人の成果や貢献度を客観的に測る「目標管理制度(MBO)」や、役割の重要度で給与を決める「職務等級制度」の導入が有効です。
2. 柔軟な働き方の選択肢を「標準装備」にする
時短勤務やリモートワーク、フレックスタイム制度を、一部の社員のための「特別措置」ではなく、誰もが利用できる「標準装備」として提供することが重要です。選択肢が増えることで、社員は自らのライフステージに合わせて最適な働き方を選べるようになり、キャリアの中断を防ぐことができます。
3. 「ロールモデル」となる女性管理職を意図的に育成する
身近に目標となる女性管理職がいることは、若手女性社員のキャリア意識を大きく引き上げます。「うちの会社には女性管理職がいない」のではなく、「育ててこなかった」のが実情ではないでしょうか。管理職候補となる女性社員に対し、意図的に挑戦的な業務機会を与えたり、役員がメンターとなる制度を設けたりするなど、会社として育成にコミットする姿勢が求められます。
結論 – 女性採用の鍵は「スローガン」ではなく「システム」の改革
女性が活躍する業界・地域と、そうでない場所の差は、個人の能力や意欲ではなく、環境や仕組みの違いによって生まれている。
多くの企業が「女性活躍」を掲げるものの、その実態は長時間労働を是とする旧来の評価制度や、柔軟性に欠ける働き方といった「男性中心的システム」のままである。これこそが、女性の採用と定着を阻む根本的な原因である。
採用力を強化したい企業がすべきことは、スローガンを掲げることではない。①成果に基づく公平な評価制度、②誰もが使える柔軟な勤務形態、③意図的なロールモデルの育成という、3つの「システム」を社内に構築することだ。女性が働きやすい環境は、結果的に性別を問わず全ての社員にとって働きやすい環境となる。その構築こそが、これからの時代に選ばれる企業になるための、最も確実な投資である。