「甘い予測」の先にある未来 – 2075年日本の労働力人口、衝撃の再計算

日本の労働力人口が、今後急速に減少していく—。これは、多くの人が共有する共通認識です。しかし、その「公式予測」ですら、すでに楽観的(甘い)ものになっているとしたらどうでしょうか。政府の予測の前提となる出生率は、発表直後から予測を下回り続けています。

本記事では、この厳しい現実を直視し、「予測よりもさらに加速する少子化」「増加する外国人労働者」という2つの重要な変数を加味して、日本の労働力人口の未来を再計算。より現実に即した、50年先までの日本の姿を定量的にレポートします。

公的予測の「前提」と厳しい現実

日本の将来人口に関する最も基本的な公的予測は、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が発表する「日本の将来推計人口(令和5年推計)」です。これは、出生率が緩やかに回復する「中位推計」を基本シナリオとしており、多くの政府計画の基礎となっています。

低位推計すら楽観的か?- 最新速報値との比較

社人研は、より悲観的なシナリオとして「低位推計」も公表しています。これは出生率が2070年に1.11まで低下し続けると仮定したものです。しかし、厚生労働省が発表した2024年の年間出生数は約70.5万人、合計特殊出生率は1.17(いずれも仮定値)と、社人研が低位推計で想定していた2024年の出生数(約72万人)すら下回る可能性が濃厚となっています。

これは、最も悲観的とされる国の公式予測ですら、もはや現実を捉えきれていないことを意味します。この「予測を超える現実」を前提に、私たちは未来を考えなくてはなりません。

未来予測シナリオ分析

ここでは、3つの異なるシナリオで日本の労働力人口を試算します。

【各シナリオの前提】
  • シナリオ1(公式・中位推計): 社人研の中位推計人口に、現在の労働力率を適用。
  • シナリオ2(公式・低位推計): 社人研の低位推計人口に、現在の労働力率を適用。
  • シナリオ3(超・低位推計): 最新の出生動向を反映し、「低位推計」の将来人口をさらに一定割合で下方修正した、より現実に即した人口に、現在の労働力率を適用。
シナリオ1(公式・中位) シナリオ2(公式・低位) シナリオ3(超・低位)
2035年 6,373万人 6,310万人 6,250万人
2045年 5,860万人 5,738万人 5,620万人
2055年 5,293万人 5,081万人 4,880万人
2065年 4,710万人 4,424万人 4,160万人
2075年 4,203万人 3,845万人 3,540万人

最新の動向を反映した「シナリオ3」では、日本の労働力人口は2055年には5,000万人を割り込み、2075年にはわずか3,540万人まで減少するという、極めて深刻な結果となります。

唯一のプラス要因 – 外国人労働力の増加

次に、この減少を補う要素として期待される外国人労働者の動向を見ます。厚生労働省の発表では、2025年時点での外国人労働者数は約220万人と過去最高を更新し続けています。

この高い伸び率が永遠に続くとは考えにくいため、ここでは保守的に「今後10年間は年率8%で増加し、その後10年ごとに5%→3%→2%→1%と伸び率が鈍化していく」と仮定して、将来の外国人労働者数を予測します。

予測される外国人労働者数
2035年 約440万人
2045年 約680万人
2055年 約880万人
2065年 約1,030万人
2075年 約1,140万人

結論:3つのシナリオを統合した日本の未来

最後に、最も現実に近い「シナリオ3(超・低位推計)」に、増加する外国人労働者数を加算し、日本の労働力人口の現実的な未来を予測します。

①公式予測(中位推計) ②現実的予測(超低位+外国人) 公式予測との差(② – ①)
2025年(基準) 約6,700万人 約6,700万人
2035年 6,373万人 約5,960万人 約-413万人
2045年 5,860万人 約5,430万人 約-430万人
2055年 5,293万人 約4,880万人 約-413万人
2065年 4,710万人 約4,380万人 約-330万人
2075年 4,203万人 約3,950万人 約-253万人

再計算の結果、外国人労働者が今後50年で1,000万人規模まで増加したとしても、予測を上回るスピードの少子化を補うことはできず、日本の労働力人口は政府の公式予測を常に数百万人単位で下回り続ける、という未来が浮かび上がります。

このレポートが示す未来は、長期的な視点でビジネスを考えるすべての企業にとって、避けては通れない現実です。この状況下で企業が生き残り、成長を続けるためには、二つの大きな戦略的転換が不可欠となります。

第一に、外国人材の雇用は、もはや選択肢ではなく、事業継続のための必須要件となる可能性が極めて高いということです。多様なバックグラウンドを持つ人材を受け入れ、活躍できる組織文化をいかに早く構築できるかが、企業の採用力を左右します。

しかし、最も重要なのは第二の点です。今回の試算が示す通り、外国人労働力の増加をもってしても、労働人口全体の減少は避けられません。人を増やすだけでは限界がある以上、企業は「より少ない人数で、より高い成果を出す」ための投資を本格化させる必要があります。それは、DXやAIの活用による徹底した業務改善であり、生産性向上のための設備投資です。今後の経営戦略は、この二つの視点を両輪として進めていくことが、絶対的な前提となるでしょう。

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