「Indeed連携」の終焉、そしてAPI連携の悩ましい現実 – 採用担当者が迫られる3つの戦略的選択

数年前まで、自社の採用サイトや求人メディアの情報をIndeedに掲載することは、比較的容易でした。求人情報を記述したフィードファイルを用意し、Indeedに読み込ませるだけで、一定の連携が実現できていたのです。しかし、近年Indeedが「Indeed Apply」を推進し、応募プロセスをIndeed内で完結させる流れを加速させたことで、状況は一変しました。

この変化は、求職者にとっては応募のハードルを下げる一方で、企業側、特に自社で求人メディアや採用管理システムを運営する企業にとっては、連携コストを飛躍的に増大させる結果を招いています。「Indeedを使わない」という選択肢が現実的ではない中、企業は今、悩ましくも重要な戦略的選択を迫られています。

何が変わったのか?- フィード連携からAPI連携へのパラダイムシフト

かつての「フィード連携」は、いわばIndeedに自社サイトへの「案内板」を置いてもらうようなものでした。求職者はIndeedで求人を見つけ、クリックすると企業の採用サイトに移動して応募していました。しかし、「Indeed Apply」が標準となった現在、Indeedは求職者を外部サイトに遷移させることを良しとしません。ユーザー体験をIndeed内で完結させるため、企業側には、より高度で双方向のデータ連携が求められるようになりました。これが「API連携」です。

API連携で求められる、終わりなき開発・運用プロセス

API連携の実現は、一度開発すれば終わり、という単純なものではありません。継続的な投資を必要とする、終わりのないプロセスです。

仕様の読解と影響調査

まず、数百ページに及ぶこともあるIndeedのAPI仕様書を正確に読み解き、自社システムへの影響範囲を調査する必要があります。

システム設計とデータ項目の検討

Indeedが要求するデータ項目(特定の給与形式など)が自社システムに存在しない場合、データベースの構造変更を含む大規模なシステム再設計が求められます。この変更が、社内の他システム(人事DB、分析ツールなど)に与える影響も調査しなくてはなりません。

実装とテスト

設計に基づき、求人情報の送受信、応募者データの取り込みといった機能を実装し、Indeedのテスト環境で厳密な動作検証を繰り返します。

継続的な保守・改修

最もコストがかかるのがこのフェーズです。IndeedがAPIの仕様を(時には予告なく)変更するたびに、迅速に影響を調査し、システムを改修し続ける必要があります。このための専門エンジニアチームを維持しなくてはなりません。

これらの開発と運用には、専門的な知識を持つエンジニアと相当なコストが必要となります。その結果、「中途半端な覚悟での自社開発は、むしろ非効率でコスト高になる」という状況が生まれています。

採用担当者が直面する「悩ましい3つの選択肢」

この新しい現実を踏まえ、企業が取りうる選択肢は、大きく分けて以下の3つです。それぞれの特性を理解し、自社の状況に合わせた判断が求められます。

1.
管理画面の直接利用

最もシンプルで低コストな方法

2.
代理店・ATSの利用

専門家の力で、開発と運用を効率化

3.
自社でのAPI開発

最大限の自由度を、高い投資で実現

選択肢 メリット デメリット 費用 時間 確実性
1. 管理画面の直接利用 ・開発コスト不要
・すぐに開始できる
・Indeedの最新機能が常に使える
・大量の求人を手作業で管理
・応募者データの一元管理が困難
・Googleしごと検索に掲載されない
低い 低い 高い
2. 代理店・ATSの利用 ・開発・保守をアウトソース
・複数媒体を一元管理できる
・専門家の知見を活用できる
・月額のサービス利用料が発生
・ツールの仕様に縛られる
・仕様変更への対応速度は提供元次第
中程度 中程度 高い
3. 自社でのAPI開発 ・完全に自由な設計が可能
・自社システムとシームレスに連携
・他チャネルも最適化可能
・莫大な開発・保守コスト
・専門エンジニアの確保が必須
・仕様変更に自社で追随し続ける必要
非常に高い 非常に高い 中程度
もう一つの変数「Googleしごと検索」というジレンマ

ここでさらに悩ましいのが、「Googleしごと検索」の存在です。これは、Googleの検索結果に求人情報を直接表示する機能で、無料で多くの求職者の目に触れる可能性がある重要なチャネルです。しかし、この機能は、企業が自社のウェブサイトに構造化データ(求人情報用の特別なタグ)を正しく実装して初めて機能します。

つまり、最も手軽な「1. 管理画面の直接利用」という選択肢を取ると、自社サイトに求人情報が掲載されないため、このGoogleしごと検索からのオーガニックな流入を完全に逃してしまうことになるのです。Indeedへの最適化と、Googleへの最適化がトレードオフの関係になってしまうという、非常に悩ましい状況が生まれています。

もはや、すべての求人媒体の管理を、低コストかつ簡単に行えた時代は終わりを告げました。採用の巨人であるIndeedとの連携は、今や相応の覚悟と戦略を持って臨むべき経営課題となっています。

「シンプルさを取るか、一元管理と多チャネル展開を取るか、完全なコントロールを求めるか」。この問いに絶対的な正解はありません。自社の事業規模、採用人数、予算、そして技術的なリソースを冷静に評価し、時に専門家である代理店の力も借りながら、自社にとって最適な道を選択していく必要があります。

目次