採用難易度の高い業界 職種での採用成功事例 – 国際自動車の挑戦
「長時間労働」「きつい仕事」といったネガティブなイメージが先行し、人手不足が深刻なタクシー業界。
「このような業界で、どうすれば若手人材を確保し、定着させられるのか?」
多くの採用担当者が頭を悩ませる中、国際自動車株式会社は、タクシー運転手の採用において、常識を覆すような成功を収めています。
本記事では、採用が特に難しいとされる業界・職種で、国際自動車がどのようにして採用を成功に導いたのかを詳細に分析します。その背景にある課題から、イメージ払拭戦略、働きやすい環境整備、そして多様な人材の獲得といった具体的な取り組みまでを掘り下げます。この事例から他社が学ぶべきポイントを抽出し、具体的なアクションプランとして提示します。
国際自動車株式会社 – 挑戦の背景
国際自動車株式会社は、タクシー・ハイヤー事業を主力とする企業であり、業界最大手の一角を占めます。しかし、その規模に反して、タクシー業界全体が抱える構造的な採用課題に直面していました。
背景と課題
業界のネガティブイメージ
「長時間労働」「給料が不安定」「きつい仕事」「人間関係が複雑」といった、タクシー運転手に対する旧来のネガティブなイメージが根強く、特に若年層からの応募獲得を困難にしていました。
高齢化と人手不足の深刻化
タクシー運転手の平均年齢は高く、高齢化が進む一方で、若手の入職が追いつかず、業界全体で深刻な人手不足に直面していました(国土交通省の「タクシー事業の現状」などから見られる傾向)。
行政処分を契機とした改革
2010年、従業員の過労による超過勤務が原因で行政処分を受けたことが、国際自動車にとって社内改革と採用戦略の抜本的な見直しを行う大きな契機となりました。特に、健全な労働環境を整備し、若い人材を獲得することが喫緊の課題となりました。
イメージ払拭とアピール戦略
国際自動車は、旧来の業界イメージを払拭し、新たな魅力を発信するために、多角的なアピール戦略を展開しました。
主な取り組み
合同説明会への積極参加
大学や専門学校の合同説明会に積極的に参加し、学生と年齢が近い若手ドライバーが説明役を担当。現場のリアルな声や働きやすさ、キャリアパスなどを直接伝えることで、業界に対する誤解や不安を払拭しました。
社会的意義の強調
「お客様の安全を守る」「移動という社会インフラを支える」といったタクシー事業の社会的意義を前面に打ち出し、単なる運転手ではなく「人の生活を支える仕事」として仕事の価値をアピールしました。
働きやすい環境の徹底整備
電子マネー・カード手数料や乗り場使用料、事故時の修理代は全額会社負担。つり銭の準備も不要な業界初の「つり銭出入金システム」を導入。大型ミラー「ミラクルミラー」による安全対策や、営業所へのアクセス向上、研修用練習コースの設置など、ドライバーの負担軽減と安全を徹底しました。
ドライバーを守る制度の確立
車内カメラやスモークガード、GPS管理システムなど、トラブル時の迅速な対応体制を整備。運送約款の改定で、セクハラ・暴力行為への厳正な対処も可能にし、ドライバーが安心して働ける環境を法制度面からも構築しました。
新卒・若手人材の獲得と育成
国際自動車は、業界のネガティブイメージを払拭し、働きやすい環境を整備するだけでなく、将来の組織を担う新卒・若手人材の採用に本格的に着手しました。これは、当時のタクシー業界においては非常に画期的な取り組みであり、育成にも並々ならぬ力を入れました。
主な取り組み
新卒採用の拡大
2010年から新卒採用を開始。当初は業界イメージから理解を得られず苦戦しましたが、4年目(2013年)には前年の約3倍となる42名、翌2014年には113名の新卒ドライバーが入社し、以降は毎年100名以上を採用するに至りました。
若手でも成長できる環境のアピール
入社3年目で営業所長になれる可能性や、将来の独立支援制度など、明確なキャリアパスと成長機会を提示。若手社員が早期にキャリアを築ける具体的なビジョンを示しました。
女性や多様な人材の活躍推進
女性ドライバーの活躍事例をホームページや採用サイトで積極的に紹介し、女性や未経験者、年齢を問わず多様な人材が働きやすい環境を整備。多角的な視点から人材を確保しました。
国際自動車 新卒ドライバー採用人数推移(2010~2014年)
※出典:国際自動車公開情報、各採用メディア・コンサルティング会社の事例紹介などに基づき作成
このグラフが示すように、国際自動車は新卒採用において、初期の苦戦を乗り越え、着実に採用人数を増やしていきました。これは、単なる「人集め」ではなく、企業イメージの改革と働きがいのある環境づくりが実を結んだ証拠と言えるでしょう。
採用戦略の成果
国際自動車の多角的な採用戦略は、具体的な成果として現れ、企業の競争力向上に大きく貢献しました。これは、採用難易度の高い業界における画期的な成功事例と言えます。
主な成果
新卒採用の定着と組織活性化
新卒採用開始から4年で151名の採用に成功し、その後も毎年100名以上の新卒ドライバーが入社。若手ドライバーのボリュームが増え、組織の活性化や多様な意見の創出につながりました。
働きやすい職場の実現と高収入
研修制度や安全対策、福利厚生の充実により、長く働ける職場環境を構築。ドライバーの平均月収は45万円以上、年収500万円以上のドライバーも多く在籍するなど、収入面での魅力も向上しました。
高い中途採用比率の維持
2023年度の正規雇用労働者の中途採用比率は91%と非常に高く、新卒・若手だけでなく、幅広い年齢層や経験を持つ人材を安定的に獲得していることを示しています。
タクシードライバー 平均年収比較(国際自動車 vs 業界平均)
※出典:国際自動車公開情報、国土交通省「タクシー事業の現状」、各採用メディア・コンサルティング会社の事例紹介などに基づき作成(業界平均年収は推定を含む)
国際自動車は、旧来の業界イメージを根本から変革し,社員が長く安心して働き,成長できる環境を整備することで、採用難易度の高い職種においても、安定的に優秀な人材を獲得できる体制を築き上げました。
他社が学ぶべきアクションプラン
国際自動車の成功事例は、採用に苦戦している他の業界や企業にとって、多くの学びと具体的なアクションのヒントを与えてくれます。
実践すべき3つの柱
1. 業界・企業のイメージを根底から見直す
自社や業界が持つネガティブなイメージを把握し、それを払拭する具体的な取り組みを行いましょう。単なる言葉のアピールだけでなく、働き方、技術、文化など実態を伴う改革が不可欠です。若手社員を巻き込み、SNSなどを活用してリアルな情報を発信し、ギャップを埋める努力を。
2. 労働環境・制度を徹底的に整備する
求職者が「ここで働きたい」と思える具体的な制度や環境を整備しましょう。残業削減、有給取得促進、キャリアパスの明確化、安全衛生の確保など、働く上での不安要素を一つひとつ潰していくことが重要です。そして、その制度が「使える制度」であることを、社員の声や数字で示しましょう。
3. 採用活動を「広報・ブランディング」と捉える
求人広告は「募集要項」ではなく「企業の魅力発信の場」です。ターゲット層が共感するメッセージを練り上げ、採用サイト、会社説明会、社員インタビューなどを通じて、自社の「人」や「文化」の魅力を多角的に伝えましょう。特に、ネガティブなイメージにどう向き合い、どう改善しているかを正直に伝える姿勢は、求職者からの信頼を得る上で重要です。
具体的な運用と担当者の役割
採用担当者・人事部門の役割
単なる採用実務だけでなく、社内改革の推進役となり、経営層や現場部門との連携を密に取る役割が求められます。データ分析に基づき、働き方改革の必要性を提言したり、社員の声を吸い上げて改善に繋げたりする「社内コンサルタント」のような視点も重要です。
カリキュラムとPDCAサイクル
採用した人材が早期に戦力化し、定着するための育成カリキュラム(OJT、研修など)を整備しましょう。また、採用活動全体(イメージ改革、働き方改革、情報発信)の効果を定量的に測定し、常にPDCAサイクルを回して改善し続けることが不可欠です。
国際自動車の事例は、どんなに困難な採用状況であっても、企業が本気で「変わる」覚悟を持ち、具体的な行動を起こせば、必ず結果に繋がることを示しています。
まとめ – 困難な採用に立ち向かうために
タクシー業界という採用難易度の高い分野で、国際自動車株式会社が収めた成功は、多くの企業にとって貴重な示唆を与えてくれます。彼らの成功は,単なる表面的な採用手法の変更ではなく、企業文化、労働環境、そして社員の働きがいそのものに対する抜本的な改革から生まれたものです。
自社の業界や職種が持つネガティブなイメージに臆することなく,それを払拭するための具体的な取り組みを行い,その「リアル」を誠実に、そして魅力的に発信すること。そして,入社した人材が長く安心して働き続けられる環境を徹底的に整備すること。
これこそが,採用難易度の高い現代において,企業が優秀な人材を惹きつけ、定着させるための唯一の道です。国際自動車の挑戦から学び、貴社の採用戦略を新たなステージへと引き上げましょう。