「良い人」の言語化戦略 – 採用成功に必須な達成可能範囲の明確化

採用活動において、どの企業も「良い人」を採用したいと願いますが、この「良い人」という言葉ほど曖昧で非効率なものはありません。誰もが思い描く「良い人」とは、業務スキル、コミュニケーション能力、プロ意識など、すべてにおいて完璧な人間像であり、現実には存在しません。仮に存在しても、ほとんどの企業では採用競争に勝てません。

採用を成功させるためには、抽象的な「良い人」のイメージを捨て、自社の採用ターゲットを具体的な「達成可能で測定可能な要素」に分解し、言語化することが極めて重要です。本記事では、職務と企業文化に基づき、「良い人」を『何ができる人か』『何を知っている人か』『何が我慢できる人か』という3つの視点から明確に定義する方法を解説します。

1. 抽象的な「良い人」が採用を失敗させる理由

「明るくて素直な人」「やる気のある人」「協調性のある人」といった曖昧な評価基準は、採用活動において以下の問題を引き起こします。

※ 採用基準の曖昧さは、厚生労働省が実施する「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する調査」において、公正な採用選考の妨げになる要因の一つとして指摘されています。

  • 応募者のミスマッチ増加

    求人票で曖昧な表現を使うと、企業が本当に求めているスキルや耐性が伝わらず、大量の不適合な応募が集まります。結果的に選考コストが増大し、内定辞退率も高まります。

  • 面接官の評価ブレ

    面接官がそれぞれ異なる「良い人」像(個人の好みや価値観)で評価してしまうため、選考が属人化し、客観的で公平な採用判断ができなくなります。

  • 入社後の早期離職

    独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査によると、入社後3年以内の離職率(新規学卒者)は依然として30%前後で推移しており、その主な理由の一つに、「仕事が合わない(ミスマッチ)」が挙げられます。これは、採用時に「何が我慢できるか」を明確にしなかった結果とも言えます。


2. 「良い人」を達成可能な3つの要素で分解する

自社の採用基準を具体的な行動や知識レベルに落とし込むことで、「誰でもできる完璧な人」ではなく、「この職務で成果を出せる人」という現実的なターゲットを明確にします。

要素 NG例(完璧なイメージ) OK例(達成可能な具体的範囲)
何ができる人か
(スキルと行動の測定)
「すべてのプログラミング言語に精通し、PMもできる人」 Python/Djangoを用いたWebアプリケーションの単体テストを自力で作成し、週次で3件のバグ修正を達成できる。
何を知っている人か
(知識と経験の測定)
「業界のすべてを知り尽くしたベテラン」 経理職の場合: 日商簿記2級以上の知識を持ち、仕訳から月次決算の試算表作成までの流れを理解している。
何が我慢できる人か
(企業文化との耐性マッチ)
「ストレス耐性が非常に高い人」 営業職の場合: 9割の顧客から断られることを業務の一部として受け止め、翌日にモチベーションを切り替えてテレアポを再開できること。

単なる意欲ではなく、「この知識を持っているから、この課題解決に貢献できる」という論理的な結びつきを求職者自身に語らせる必要があります。


3. 言語化から採用戦略への応用

言語化された要素 面接での確認方法 採用後の期待値と定着戦略
何ができるか ロールプレイング、過去の具体的な成果とその達成方法 入社後3ヶ月で達成すべき数値目標の設定
何を知っているか 専門知識に関する論理的な質疑応答(知識テスト) 知識レベルに応じた研修の省略と即時戦力化
何が我慢できるか 過去の最大の失敗やストレス経験への対処方法 入社前に職務の厳しい側面を具体的に伝え、期待値を調整

採用戦略の成功は、完璧な「良い人」を探すことではなく、「自社で確実に成果を出せる人」を具体的に定義し、ターゲットを絞り込むことから始まります。

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