リモートワーク求職者の実態と採用戦略 – 働く場所が採用を左右する時代

新型コロナウイルス感染症のパンデミックを機に一気に普及したリモートワークは、現在、多くの企業で「出社回帰」の動きも見られる一方で、求職者の間では依然として強いニーズを持っています。
「リモートワークを希望する人はどれくらいいるのか?」「どのような層が求めているのか?」「導入することでどれくらいの応募者増が見込めるのか?」
本記事では、公的機関や民間の調査レポートに基づき、リモートワークを希望する求職者の現状を詳細に分析します。さらに、リモートワーク導入が企業にもたらす採用ポテンシャルを具体的に解説し、労働力不足時代を勝ち抜くための実践的な採用戦略を提言します。

リモートワーク求職者の現状と推移

一時的な感染症対策として導入されたリモートワークですが、その利便性から多くの求職者にとって「当たり前の働き方」として定着しつつあります。

テレワーク実施率と希望者の推移

日本生産性本部の「働く人の意識調査」(2025年1月)によると、テレワークの実施率は14.6%と過去最低を更新していますが、これは企業の出社回帰の動きを反映したものです。 一方で、大手企業を中心に、パンデミック収束後に出社回帰の動きが顕著になり、リモートワークを縮小するニュースが多く報じられています。しかし、日本国内では、自宅勤務制度を「実施していない者のうち、実施を希望する割合」は36.9%(2025年1月調査)と依然として高い水準にあります。また、dodaの調査(2021年10月)では、転職希望者の55.7%が「テレワーク実施が応募の意向に影響する」と回答しており、リモートワークの有無が求職者の応募行動に強く影響していることがわかります。

図1. 自宅勤務を希望する未実施者の割合の推移(日本生産性本部調査より)

※本グラフのデータは日本生産性本部「働く人の意識調査」に基づきます。

リモートワーク求人数の増加

求職者のニーズに応える形で、リモートワーク可能な求人数も増加傾向にあります。dodaの調査(2021年10月)によると、2020年1月と比較して「テレワーク可」の求人数と応募数は約10倍に増加しています。
また、Indeed Japanの調査(2025年4月)では、「リモートワーク」の仕事検索割合はコロナ禍を経て右肩上がりで伸長し、2019年から2025年の6年間で2.9倍に増加。特に「フルリモート」への関心は90.9倍と大きく拡大しており、求職者のリモートワーク志向が根強いことが示されています。

リモートワークを求める層 – 属性別分析

リモートワークを希望する求職者には、どのような属性の人が多いのでしょうか。職種、性別、年齢別に見ていきます。

職種別 リモートワーク実施率・希望率

職種によってリモートワークの実施率は大きく異なります。パーソル総合研究所の調査(2024年7月)によると、テレワーク実施率が最も高い業種は「情報通信業」の56.2%、次いで「学術研究、専門・技術サービス業」の36.9%です。
職種別では、「コンサルタント」や「IT系技術職」が高い傾向にあります。これは、PCとインターネット環境があれば業務遂行が可能な職種であるためです。

図2. 業種別テレワーク実施率(2024年7月、パーソル総合研究所調査より)

※本グラフのデータはパーソル総合研究所「第九回・テレワークに関する定量調査」に基づきます。

性別・年齢別 リモートワーク希望の傾向

リモートワークの希望者は、年齢層や性別によっても傾向が見られます。PR TIMESのアンケート調査(2022年3月)によると、特に20代を中心とした若い世代ほどリモートワークを希望する人が多く、年齢が上がるにつれて通勤希望者の割合が増える傾向があります。
男女別に見ても同様の傾向ですが、女性の60代以上では通勤希望者の割合が多いという特徴も指摘されています。
学情の20代を対象とした調査(2020年7月)では、テレワークでの勤務を希望する人は7割を超えるものの、そのうち75.4%は「週1回以上の出社」を希望しており、完全リモートよりもハイブリッドワークを望む声も多いことがわかります。

図3. 年代別リモートワーク希望割合(概念図)

※本グラフは複数の調査結果を基にした概念図であり、実際の数値は各調査レポートを参照ください。

リモートワーク導入の採用ポテンシャル

リモートワークの導入は、企業が獲得できる労働力と応募者数を大幅に拡大する大きなポテンシャルを秘めています。

地理的制約からの解放と応募者層の拡大

リモートワークを導入することで、企業は特定の地域に限定されず、全国、さらには海外にまで採用ターゲットを広げることができます。これにより、これまでリーチできなかった地方の優秀な人材や、育児・介護などで通勤が難しい潜在労働力(主婦・主夫層、シニア層など)にアプローチすることが可能になります。
dodaの調査(2021年12月)では、約6割が転職時の応募意向に「テレワーク実施の有無」が影響すると回答しており、リモートワークの有無が応募数の増加に直結することが示されています。

優秀な人材の確保と定着率向上

リモートワークは、通勤時間の削減、ワークライフバランスの向上、自己成長時間の確保など、求職者にとって多くのメリットを提供します。これにより、企業は賃金以外の魅力で優秀な人材を引きつけやすくなります。また、柔軟な働き方ができることで、従業員の満足度が向上し、結果的に離職率の低下や定着率の向上にも繋がります。
リクルートワークス研究所の調査(2022年)でも、「リモート採用」が応募者の増加や選考スピードの向上に貢献していることが示されています。

【大手企業の出社回帰が進む今こそ、中小企業のチャンス!】
大手企業で出社回帰の動きが加速しているニュースが頻繁に報じられる中で、リモートワークの選択肢が世界的に減少する傾向が見られます。一方で、日本の求職者のリモートワークへのニーズは依然として根強く、特に中小企業にとっては、大手企業と同じ土俵で「働き方」という新たな魅力を提示できる大きな武器となります。これは、これまで獲得が難しかった優秀な人材にリーチし、採用競争力を劇的に向上させる稀有なチャンスと言えるでしょう。

導入しないリスクと成功戦略

リモートワークを導入しない企業は、労働力不足が深刻化する中で、採用面で不利になるリスクがあります。

リモートワークを導入しない企業が直面する課題

  • 採用ターゲット層の限定化
    通勤圏内の求職者にしかアプローチできず、リモートワークを希望する層を逃してしまいます。これにより、人材プールの縮小と採用難易度の上昇を招きます。
  • 優秀な人材の離反
    リモートワークを許容する競合他社に、優秀な人材が流出するリスクが高まります。特に、若年層やIT人材など、リモートワークへの関心が高い層は顕著です。
  • 企業イメージの低下
    「働き方が柔軟でない企業」というイメージが定着し、採用ブランディングに悪影響を及ぼす可能性があります。

リモートワーク導入成功企業に学ぶ戦略

  • 「ハイブリッドワーク」の柔軟な導入
    完全にリモートワークに移行するだけでなく、「週に数回出社」といったハイブリッド型勤務を導入することで、コミュニケーションの活性化と柔軟な働き方の両立を図ることができます。
    (具体例: サイボウズ株式会社のように「100人いれば100通りの働き方」を許容する文化を醸成)
  • コミュニケーション基盤と評価制度の整備
    リモートワーク環境下でも円滑なコミュニケーションが取れるよう、オンライン会議ツール、チャットツール、プロジェクト管理ツールなどの導入を徹底しましょう。また、対面中心の評価から、成果を重視する公平な評価制度への移行が不可欠です。
    (具体例: 毎日朝会をオンラインで実施、定期的な1on1ミーティングの義務化、成果目標の明確化)
  • 「働く場所」の魅力を採用ブランディングに活用
    リモートワークの導入は、そのまま企業の採用ブランディングに直結します。「どこでも働ける自由」「通勤ストレスなし」「地方で暮らしながら都市部の仕事ができる」といった魅力を積極的に発信し、求職者にアピールしましょう。
    (具体例: 採用サイトでリモートワーク環境の紹介動画を公開、リモートワーク社員のインタビュー記事を掲載)

採用成功へのロードマップ

リモートワークは、単なる一時的な働き方の選択肢ではなく、現代の求職者が重視する価値観の大きな潮流となっています。リモートワーク導入の有無は、企業の採用競争力に直結し、特に賃金面で大手企業に劣る中小企業にとっては、優秀な人材を獲得するための強力な武器となりえます。

リモートワークを「導入しない」という選択は、潜在的な応募者層を大幅に狭め、人材獲得競争において不利になるリスクを増大させます。逆に、戦略的に導入し、その魅力を効果的にアピールできれば、これまで出会えなかった優秀な人材との接点を創出し、企業の成長を加速させるでしょう。

このレポートを読んだあなたが、リモートワークを活用して採用を成功させるためのロードマップとして、以下の現状と課題、そして具体的な対策を再確認してください。

  • 現状 – リモートワークニーズの根強さ
    企業の出社回帰傾向があるものの、リモートワークを希望する求職者層は依然として多く、特にIT系職種や若い世代でその傾向が顕著。リモートワーク可能な求人数も増加傾向にある。
  • 課題 – 導入しないことによる採用機会損失
    リモートワーク非導入企業は、採用ターゲットが地理的に限定され、リモート希望層や地方の優秀な人材を獲得できない。結果として人材流出や企業イメージ低下のリスクに直面する。
  • 対策 – 戦略的なリモートワーク導入とアピール
    「ハイブリッドワーク」など柔軟なリモートワークを導入し、コミュニケーション基盤と成果主義に基づく評価制度を整備する。リモートワークの魅力を採用ブランディングに活用し、自社の採用サイトやSNSで積極的に発信する。
リモートワークの導入は、単なる福利厚生ではなく、企業の採用力を根本から強化する「戦略的な投資」です。
働く場所の柔軟性を高め、その魅力を効果的に発信することで、企業は場所の制約を超え、全国、ひいては世界の優秀な人材を獲得し、持続的な成長を実現できるでしょう。
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