「強みがない会社」の採用戦略 – 誠実さで人は集まる。定着に繋がる4つの実践ステップ

「給料は平均的、事業も地味、特別な福利厚生もない…」
「競合はあんなにキラキラしているのに、うちにはアピールできる強みがない…」

採用活動において、多くの人事担当者がそう嘆いています。しかし、その悩みは「勝てない土俵」で戦おうとしているからかもしれません。

世の中の誰もが、野心的なキャリアプランを描き、自己成長に情熱を燃やしているわけではありません。むしろ多くの人は、「なんとなく」働き、大きな不満なく、日々の生活を大切にしています。

この記事では、派手な強みがない企業が、そうした「普通の人々」に誠実に向き合うことで採用を成功させ、定着まで実現するための、論理に基づいた4つの具体的なアクションプランを提案します。

なぜ採用は失敗するのか? – “強みがない”企業が陥る負のスパイラル

アピールできる点がないと感じると、企業は以下のような誤った行動に走りがちです。

  • 求人票で話を「盛る」→ 入社後のギャップで数ヶ月で離職。
  • 他社を真似て「背伸び」する→ 魅力が響かず、高い広告費だけが無駄になる。
  • 諦めて「待つ」だけになる→ 応募が来ず、時間だけが過ぎていく。

これら全てに共通するのは、膨大なコストの浪費です。早期離職が一人発生した場合の損失は、支払った給与や社会保険料、そして何より「採用と教育にかけた全ての時間と費用」です。これは、数百万円にものぼる損失になりかねません。この負のスパイラルを断ち切ることが、最初の目標です。

【人事担当者のための実践ガイド】定着を見据えた採用4ステップ

ここからは、具体的なアクションプランを4つのステップで解説します。

Step 1: “強み”ではなく「事実」と「なんとなく」を探す

まず、「アピールできる強み」という言葉の呪縛から逃れましょう。探すべきは、他社より優れた「強み」ではなく、あなたの会社に存在する客観的な「事実」です。

実践: 社員へのヒアリング

既存の社員、特に長く働いている方に「なぜ、この会社で働き続けているのですか?」と聞いてみてください。もし「なんとなく」という答えが返ってきたら、それはチャンスです。

「なんとなく」を分解する

「その”なんとなく”って、例えばどんな時に感じますか?」と深掘りしましょう。「通勤が楽だから」「余計な飲み会がないから」「変に高い目標を押し付けられないから」。これらは全て、求職者にとって超具体的な“働く環境の魅力”なのです。

  • 「家から近い」 → 通勤ストレスがなく、プライベートの時間を確保できる
  • 「人間関係が楽」 → 心理的安全性の高い職場
  • 「残業が月平均10時間程度」 → ワークライフバランスの実現
  • 「細かい指示が無く、自分の裁量で仕事を進められる」 → 自律性を尊重する文化
  • 「大手との安定した取引がある」 → 堅実で倒産リスクの低い経営基盤

これらは、あなたにとっては「当たり前」でも、転職市場にいる多くの求職者、特に派手さよりも安定や働きやすさを求める層にとっては、非常に価値のある「事実」なのです。

Step 2: 採用ターゲットを「絞る」

派手な魅力で万人を惹きつけられない以上、「誰でもいいから来てほしい」という考えは捨てなければなりません。Step1で見つけた「事実」に、心から共感してくれるであろう人物像(ペルソナ)にターゲットを絞り込みます。

実践: 「意識が高すぎない層」も視野に入れる

世の中は、成長意欲の高い人ばかりではありません。Step1の「事実」に響くのは、どのような人でしょうか?

  • 輝かしいキャリアよりも、安定した日常を大切にしたい人
  • ハイテンションな職場より、落ち着いた環境で静かに集中したい人
  • 成果主義のプレッシャーよりも、コツコツと自分の仕事をこなす環境を好む人
  • 無理に自分を大きく見せるのに疲れ、等身大の自分でいられる場所を探している人

このような具体的な人物像を描くことで、この後の求人票や採用サイトで伝えるべきメッセージが明確になります。勝てない勝負をせず、勝てる相手(=自社にマッチする人材)だけにアプローチするのが鉄則です。

Step 3: 求人・採用サイトを「正直」かつ「翻訳」して作る

ターゲットが決まったら、その人に「誠実」に語りかけるコンテンツを作成します。重要なのは、事実をありのままに、かつ魅力的な言葉に「翻訳」することです。

実践: 「地味」を「価値」に変えるコピーライティング
  • 「地味」→「堅実」「落ち着いている」
    例:『当社には、ヒーローのようなスター社員はいません。その代わり、お互いを尊重し、真面目にコツコツと仕事に取り組む仲間がいます』
  • 「普通」→「安定」「安心」
    例:『私たちは、派手な成長物語を語ることはできません。その代わり、社員一人ひとりが、日々の生活を大切にしながら、穏やかに働ける環境を提供することを約束します』
  • 良い点と悪い点を併記する:
    例:『〇〇という地味な作業も多いですが、お客様から直接感謝されるやりがいがあります』のように、正直に伝えることで信頼が生まれます。
Step 4: 面接を「すり合わせ」の場にする

正直な情報発信に惹かれて応募してくれた候補者とは、最後まで誠実に向き合う必要があります。面接は、スキルを見極めるだけでなく、お互いの価値観や期待値を「すり合わせる」場と位置づけましょう。

実践: カルチャーフィットの確認
  • 懸念点を引き出す: 「弊社の働く環境について、何か不安や懸念点はありますか?」と踏み込んで質問し、候補者の本音を引き出します。
  • 会社の弱みも話す: 「うちはまだ〇〇という制度が整っていなくて…」と、会社の未熟な部分も正直に伝えることで、入社後のギャップを最小限にします。
  • 「能力」と「相性」を両輪で見る: どれだけスキルが高くても、会社の雰囲気や価値観に合わないと感じたら、勇気を持って不採用と判断することも重要です。その判断が、将来のミスマッチと早期離職を防ぎ、結果的にコスト削減に繋がります。

結論: 「誠実さ」こそが、最強の採用戦略である

派手な強みがない会社が採用を成功させる道筋は、非常にシンプルです。

自社に存在する「当たり前の事実」を正直に見つめ、その「当たり前」に価値を感じてくれる人に、誠実に語りかけること。

この一貫した姿勢が、無駄な広告費を削減し、ミスマッチによる早期離職を防ぎ、長期的に会社に貢献してくれる人材との出会いを創出します。それは、短期的な応募者数を追うよりも、はるかに合理的で、コスト効率の高い戦略なのです。

明日からできること
まずは、あなたの会社で一番長く働いている社員に、こう聞いてみてください。
「色々あると思うんですけど、なんでここで働き続けてくれてるんですか?」
そこに、あなたの会社だけの採用戦略のヒントが隠されています。
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