Indeedを軸に国内制覇へ動くリクルート、海外事業の不振と「両睨み」経営の行方

株式会社リクルートホールディングスが発表した2025年3月期通期決算は、同社の中核である求人関連事業が、国内と海外で大きく異なる様相を呈したことを浮き彫りにした。世界的な景気減速を背景に海外のHRテクノロジー事業は前年比減収となったが、深刻な人手不足が続く国内のマッチング&ソリューション(M&S)事業は、新たに投入された「Indeed PLUS」を軸とするエコシステム戦略が奏功し、引き続き高い成長を維持。海外事業の調整局面を、強固な国内事業が下支えする構図が鮮明となった。

事業セグメント別動向

HRテクノロジー事業:世界的な採用抑制で逆風

HRテクノロジー事業の中核であるIndeedは、コロナ禍後の爆発的な採用需要が一巡したことを受け、調整局面に移行した。特に主要市場である米国において、企業の採用意欲が減退し、求人広告出稿のペースが鈍化したことが最大の要因である。

HRテクノロジー事業 売上収益推移

決算期 売上収益 前年同期比
2024年3月期1兆1,500億円-10.2%
2025年3月期1兆0,830億円-5.8%

※数値は本稿作成にあたってのモデル値

マッチング&ソリューション事業:エコシステム戦略で国内の優位性を盤石に

一方、国内の求人事業は極めて好調に推移した。この好調を支えるのは、構造的な人手不足というマクロ環境に加え、リクルートが展開する緻密なエコシステム戦略である。無料の採用ツール「Airワーク 採用管理」で中小企業を含む膨大な求人情報を集め、それをIndeedに集約。さらに「Indeed PLUS」を通じて「リクナビNEXT」や「タウンワーク」といった自社有力媒体へ一括で拡散する。この流れは、日本の採用市場における”OS”を握るに等しい。

【考察:エコシステムが内包する戦略的課題】
この強力なエコシステムは、一方でリクルート自身に新たな課題を突きつけている。例えば、「Airワーク」と「Indeed」の求人管理機能は、今後ますます重複していく可能性がある。顧客に対し、どのツールを、どの目的で利用してもらうのか。明確なすみ分けと分かりやすい案内がなければ、顧客体験を損ないかねない。

また、「Indeed PLUS」によって各媒体の垣根が低くなることで、「リクナビ」や「タウンワーク」といった伝統的なブランドの価値をいかに維持し、再定義していくかというブランドマネジメントも重要な論点となる。強力なプラットフォーム戦略の裏側で、複雑化する商品構成とブランドの調整という、難しい舵取りが求められている。

今後の見通し

リクルートHDの求人事業は、当面、海外と国内で異なる成長軌道を辿る可能性が高い。

海外のHRテクノロジー事業は、世界経済の動向に左右される状況が続く。AI技術への投資を加速させ、単なる広告プラットフォームから、より包括的な採用ソリューションへの進化を急ぐことで、この局面を乗り切りたい考えだ。

国内のマッチング&ソリューション事業は、構造的な人手不足を背景に、引き続き安定した成長が見込まれる。特に「Airワーク」と「Indeed PLUS」が形成するエコシステムは、強力な競合優位性として機能し続けるだろう。前述の内部的な課題を整理し、顧客にとっての利便性を高め続けることができれば、その地位はさらに盤石なものとなる。

結論として、同社は海外事業の収益性をいかに改善し、国内事業の生態系をいかに洗練させていくかという、二正面での課題に直面している。世界と日本の労働市場の「違い」を的確に捉え、それぞれに最適化した戦略を実行できるかが、今後の成長の鍵を握るだろう。

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