データで見る「不人気な仕事」の実態 – 求人倍率と離職率から読み解く、人が集まらない業界・職種

深刻な人手不足が叫ばれる日本。しかし、その問題の深刻さは、全ての業界や職種で一様ではありません。求職者が集まりやすい人気の仕事がある一方で、常に募集をかけても人が集まらない「不人気」な仕事も存在します。

なぜ、これらの仕事は敬遠されてしまうのでしょうか。本記事では、複数の公的調査データを基に、現代の日本における「不人気業種・職種」の実態を可視化します。求職者の意識、採用市場の需給バランス、そして入社後の定着率という3つの異なる角度から、人が集まらない仕事の構造的な課題を浮き彫りにします。

1. 求職者の本音 – 現代の若者が「重視する」働き方とは

人が集まらない理由を探るには、まず求職者が何を求めているかを知る必要があります。大手人材会社マイナビの調査からは、現代の学生が企業選びにおいて「働き方の質」を極めて重視していることがわかります。

企業を選択する場合に特に重視する項目 回答率
仕事とプライベートのバランス(ワークライフバランス)が保てる 48.5%
雇用の安定性 41.1%
給料が良い 38.9%
出典:株式会社マイナビ「2025年卒 大学生 就職意識調査」を基に作成

この結果は、「ワークライフバランスが取れない」「安定性に欠ける」「給与が仕事内容に見合わない」といった特徴を持つ仕事が、必然的に「不人気」となることを示唆しています。これから見ていくデータは、まさにこの価値観を反映したものとなります。

2. 採用市場の需給ギャップ – 人が足りない職種はどこか?

求職者の意識は、実際の採用市場の需給バランスに如実に反映されます。厚生労働省が毎月発表している「有効求人倍率」を職種別に見ると、「人気がない」職種がどれほど深刻な人手不足に陥っているかが一目瞭然です。

【職業別】有効求人倍率(2025年最新)
保安の職業 7.15倍 建設・採掘の職業 5.69倍 サービスの職業 3.08倍 全職業平均 1.27倍 事務的職業 0.52倍
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」最新値を基に作成
人手不足が深刻な職種

保安 (7.15倍)、建設 (5.69倍)

人が集まりやすい職種

事務 (0.52倍)

警備員などを含む保安の職業建設業では、求職者1人に対して5件以上の求人が殺到する異常事態です。これは、企業側が激しい人材の奪い合いを繰り広げていることを意味します。対照的に、人気の高い事務的職業は、求職者が仕事を選べる「買い手市場」となっています。

3. 入社後の現実 – なぜ人は辞めていくのか?

人手不足の業界では、せっかく採用した人材が定着しないという問題も深刻です。厚生労働省の調査による「新規大卒就職者の就職後3年以内の離職率」は、業界ごとの働きやすさを示す一つの指標となります。

産業分類 3年以内離職率
宿泊業、飲食サービス業 49.7%
生活関連サービス業、娯楽業 47.4%
教育、学習支援業 45.5%
(参考)新規大卒就職者全体 平均 32.3%
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」

宿泊・飲食サービス業では、新卒で入社した若者の約半数が3年以内に辞めてしまうという厳しい現実があります。これらの業界は、先の調査で若者が重視する「ワークライフバランス」が保ちにくい特徴があり、「求人倍率の高さ」と「離職率の高さ」が密接に連動していることがわかります。

複数の公的データを組み合わせることで、「不人気」とされる仕事の輪郭が明確になりました。求職者の意識(働き方の質を重視)、採用市場の需給(高い求人倍率)、そして入社後の定着(高い離職率)という3つのデータは、すべて同じ方向を指しています。

それは、建設業、警備・保安業、そして宿泊・飲食・介護などを含む広義のサービス業が、現代の日本において構造的な人手不足と不人気という課題を抱えているという、動かしがたい事実です。これらの業界に共通するのは、労働集約的で、身体的・精神的な負担が大きく、そして多くの場合、その負担に見合うだけの処遇が提供できていないという現実です。

この構造的な問題を解決するためには、求人原稿の表現を工夫するといった小手先の対策では不十分です。業界全体で、DXによる生産性向上、抜本的な賃金体系の見直し、そして働き方の柔軟性を高めるといった、仕事の魅力そのものを向上させるための、本質的な変革が求められています。

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