「学生時代といえばアルバイト」という常識は、もはや過去のものとなりつつあります。現代の学生たちは、学業の傍ら、有給インターンシップで実践的なスキルを磨き、時には自ら事業を立ち上げるなど、その活動は驚くほど多様化しています。
企業の新卒採用担当者にとって、この変化は看過できません。彼らは単なる「就活生」ではなく、大学在学中から主体的にキャリアを形成し始めた「プレ社会人」だからです。本記事では、公的機関などのデータを基に、現代学生のキャリア活動の実態を解き明かし、彼らから「選ばれる企業」になるために、今、何をすべきかを具体的に提言します。
多様化する学生のキャリア活動 – データが示す実態
今日の学生たちが、学業以外にどのような活動に時間を費やしているのか。各種調査からは、アルバイトが依然として多数派である一方、インターンシップの参加率が驚異的に伸びている実態が見えてきます。
出典:マイナビ「2024年卒大学生インターンシップ実態調査」、全国大学生協連「第60回学生生活実態調査」、GUESSSプロジェクト「GUESSS 2021日本版報告書」より作成。
全国大学生協連の調査によれば、アルバイトに従事する学生の割合は76.8%と依然として高い水準です。しかし、それ以上に注目すべきはインターンシップへの参加率です。株式会社マイナビの調査では、2024年卒の学生の88.1%がインターンシップに参加したと回答しており、もはや就職活動に不可欠な要素となっています。
さらに、世界的な学生の起業意識調査であるGUESSSプロジェクトの日本版報告書によると、数は少ないながらも1.5%の学生が在学中に実際に起業しており、キャリアの選択肢が多様化していることを象徴しています。
「お試し」と「自己実現」- 学生はなぜバイト以外を選ぶのか
この変化の背景には、学生たちの価値観の大きなシフトがあります。かつてアルバイトの主な目的が「お金稼ぎ」だったのに対し、現代の学生はそれに加え、より明確な目的意識を持って活動しています。
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キャリアの「お試し」としてのインターンシップ
入社後のミスマッチを極度に恐れる彼らは、インターンシップを「その会社、その仕事を“お試し”で体験する機会」と捉えています。給与の多寡よりも、リアルな仕事内容、職場の雰囲気、社員の人柄といった「生の情報」に触れることを重視します。 -
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スキルアップと「ガクチカ」作り
就職活動で語れる「学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)」を作るため、より実践的で専門的なスキルが身につく長期有給インターンを選ぶ学生が増えています。これは、単なる経験ではなく、自身の市場価値を高めるための「戦略的投資」です。 -
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自己実現と社会との接続
学生起業やNPO活動は、自身の興味や問題意識をダイレクトに社会で表現する「自己実現」の手段です。組織に属する前に、自らの力で社会と関わり、価値を生み出す経験を求めています。
高水準で続く「超売り手市場」- 就職率の推移
これほど学生の活動が多様化しても、最終的に大多数が「就職」という道を選びます。そして、その就職環境は、下のグラフが示す通り、極めて学生に有利な「超売り手市場」が続いています。
出典:文部科学省・厚生労働省「大学等卒業者の就職状況調査」より作成。
大学卒業者の就職率は、リーマンショック後の一時期を除き、95%を超える高い水準で安定しています。これは、企業側から見れば「学生が複数の内定から、入社する企業を自由に選べる」状況を意味します。学生たちは、多様な活動を通じて培った経験と価値観を基に、より厳しい目で企業を「選考」しているのです。
これからの新卒採用 -「選ばれる企業」になるための3つの機会創出
主体的にキャリアを考え、行動する学生たちから選ばれるためには、企業は従来の「選考する」という姿勢から、「惹きつけ、体験してもらう」という姿勢への転換が不可欠です。具体的には、以下の3つの「機会」を提供することが重要になります。
機会1:仕事のリアルに触れる「職業体験」の機会
説明会やパンフレットだけの情報では、学生の心は動きません。彼らが求めるのは、仕事の面白さも大変さも含めた「リアル」です。1day仕事体験のような短期インターンシップであっても、社員が実際に取り組んでいる課題の一部をテーマにするなど、「疑似業務体験」ができるプログラムを用意することが効果的です。
機会2:社員と対話し「企業の体温」を感じる機会
学生が最も知りたいことの一つが「どんな人たちが働いているか」です。人事担当者だけでなく、若手からベテランまで、様々な職種の現場社員と気軽に話せる座談会やメンター制度を設けましょう。仕事のやりがい、失敗談、キャリアプランなどを正直に語ってもらうことで、学生は企業の「体温」を感じ、自身が働く姿を具体的にイメージできます。
機会3:自身の「成長と貢献」を実感できる機会
「この会社に入れば、自分はどう成長できるのか?」「自分の仕事は、どう社会の役に立つのか?」という問いに、企業は明確に答える必要があります。入社後の研修制度、キャリアパスのモデルケース、そして自社の事業が持つ社会的意義を具体的に示すことで、学生は「ここで働く意味」を見出し、入社意欲を高めます。
まとめ – Z世代に選ばれる企業への変革
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現状 – 学生のキャリア形成の早期化・多様化
学生は大学在学中からインターン等を通じて主体的にキャリアを模索。就職活動は、複数の選択肢の中から自分に合う企業を「選ぶ」場となっている。
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課題 – 従来型の採用活動とのギャップ
企業側が、就職活動期だけの一方的な情報提供や「選考」に終始してしまい、学生が求める「リアルな情報」や「体験」を提供できていない。
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対策 – 「共感」と「体験」を軸にした早期からの関係構築
採用活動を「選考」ではなく、「学生とのエンゲージメントを高める機会」と再定義する。職業体験、社員との対話、成長の可視化という3つの機会を提供し、学生が自社のファンになるような関係を早期から築いていく。
もはや新卒採用は、数ヶ月の「イベント」ではありません。
学生がキャリアを意識し始める大学1、2年生の段階から、自社の魅力を伝え、関係を育んでいく3〜4年がかりの「ブランディング活動」です。
この新しい常識に適応し、学生に真摯に向き合う企業だけが、未来を担う優秀な人材からの支持を得ることができるでしょう。