人材会社に丸投げは危険 – 倒産急増が示す、企業が今すぐ意識すべき「働いていただく」姿勢

「急な欠員が出たから、派遣会社に頼もう」「良い人がいたら、人材紹介会社に紹介してもらおう」。長年、企業が人材を「選ぶ」側であることが当たり前だった時代、人材会社は採用活動における便利なパートナーでした。しかし、その常識は今、完全に崩壊しています。

空前の売り手市場と労働人口の減少を背景に、頼みの綱であるはずの人材会社ですら、人を集められない時代に突入しています。最新の調査では、その苦境が倒産件数の急増という最悪の形で表面化していることが明らかになりました。本記事では、この衝撃的なデータを基に、企業が持つべき「採用する」から「ぜひ、うちで働いてください」へと変わるべき姿勢を提言します。

もはや魔法の杖ではない – 人材会社でも人が集まらない現実

「手数料を払っているのだから、良い人材を連れてきてくれるはずだ」。この期待は、もはや幻想かもしれません。深刻な人手不足は、企業だけでなく人材会社をも直撃しています。彼らもまた、自社に登録してくれる求職者の方々に「選んでもらう」ために必死なのです。

結果として何が起きるか。競争力のある給与や柔軟な働き方、あるいは強いブランド力を持つ、いわゆる「魅力あふれる会社や仕事」にしか、人材を紹介できなくなってきています。多くの求人が人材会社内で塩漬けとなり、「紹介会社に依頼しているのに、一向に音沙汰がない」という事態が頻発しているのです。「採用してやっている」という感覚のままでは、人材会社という土俵ですら戦えない。それが今の厳しい現実です。

データが語る人材業界の悲鳴 – 倒産件数は異常なハイペースで急増

人材派遣業界の苦境は、もはや「厳しい」という言葉では生ぬるいレベルに達しています。企業調査の専門機関である東京商工リサーチが2025年6月に発表した最新の調査は、その危機的な状況を克明に映し出しています。

労働者派遣業の倒産件数比較(1-5月累計)
40件 20件 17 2024年 53 2025年
出典: 東京商工リサーチ「2025年1-5月『労働者派遣業』の倒産状況」調査より作成

グラフが示す通り、2025年の倒産件数はわずか5ヶ月で53件に達し、前年の同じ期間の17件から3倍以上(前年同期比211.7%増)に激増しています。これは1997年以降で最多のハイペースであり、このまま推移すれば年間最多を大幅に更新することは確実視されています。

さらに深刻なのは、倒産が小規模な企業に限らない点です。負債総額は前年の4倍を超える55億9,900万円に膨れ上がり、中堅企業の行き詰まりも目立ち始めています。倒産の理由として最も多いのは「販売不振」ですが、その根底にあるのは、待遇面で大手に劣る中小・零細企業が「派遣スタッフを確保できない」という構造的な人手不足です。もはやこれは一部の弱い企業の問題ではなく、業界全体を揺るғаす地殻変動なのです。

企業が見直すべき「採用の前提」

この現実は、採用活動を行うすべての企業に、発想の根本的な転換を迫っています。

人材会社は「救世主」ではなく「数ある選択肢の一つ」

まず認識すべきは、人材会社はもはや万能の解決策ではない、ということです。彼らもまた、私たちと同じように人手不足に苦しむ「当事者」なのです。彼らに依存し、「採用してやる」という姿勢でただ待っているだけでは、事態は好転しません。自社の採用活動の「主役」は、あくまで自社自身であるという意識を持つことが不可欠です。

求職者の行動は、すでに変化している

さらに重要なのは、求職者の方々の行動様式の変化です。転職アプリやSNSの普及により、彼らは人材会社を介さずとも、企業の情報を収集し、直接アプローチできるようになりました。彼らはもはや、紹介されるのを待つ「商品」ではありません。自らの意思で企業を吟味し、比較し、選ぶ「顧客」なのです。この変化に対応し、自社で「働いていただく」ために何ができるかを考えられない企業は、採用市場から取り残されていきます。

人材会社への依存から脱却し、採用市場で「選ばれる」存在になるためには、採用活動のOS(オペレーティングシステム)そのものをアップデートする必要があります。

観点 従来の考え方(待ちの採用) これからの戦略(攻めの採用)
採用手法 人材会社への依頼が中心。「待ち」の姿勢。 マルチチャネル化。ダイレクトリクルーティング、SNS、リファラル採用などを自社で主導する。
情報発信 求人票に書かれた「スペック情報」のみ。 採用サイト等で、企業文化や社員の声、働きがいといった「働きたくなる理由」を継続的に発信する。
選考プロセス 企業が候補者を「選別する」場。 候補者に「この会社で働きたい」と思っていただくための体験(CX)を提供する場。一人ひとりに敬意を払い、迅速かつ丁寧な対応を徹底する。
担当者の役割 採用業務の実行者(オペレーター)。 自社の魅力を市場に売り込み、候補者を口説く、採用のマーケターであり、広報担当者。

人材派遣会社の倒産が過去にないペースで急増しているという事実は、単なる一業界の不振ではありません。それは、日本の採用市場が「人材会社に任せておけば何とかなる」という時代を完全に終え、企業が候補者から「選ばれる」立場になったことを示す、極めて重大なシグナルです。

もはや採用活動は、人事部の一業務として外部に委託できるものではなく、企業の未来を左右する最重要の経営戦略そのものとなりました。これからの時代に求められるのは、外部パートナーの力に依存することではなく、自社の魅力を自らの言葉で定義し、磨き上げ、そして未来の仲間となりうる方々に「ぜひ、うちで働いてください」と能動的に届け続ける力。その地道で誠実な姿勢こそが、企業の持続的な成長を支える人材との出会いを引き寄せる唯一の道なのです。

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