【採用戦略の新常識】学生をファンに変えるインターンシップの設計と思考法

多くの企業が優秀な人材の早期確保を目指し、インターンシップ制度に力を入れています。しかし、提供するプログラムと学生が本当に求めているものとの間に、ギャップは生じていないでしょうか。

「仕事のやりがい」「社会貢献」といった綺麗事の裏で、学生たちはもっと現実的な目的を持っています。本記事では、各種公的調査の結果を基に、学生がインターンシップに抱く「本音」を解き明かし、これからの時代に求められる採用戦略を探ります。

1. 「建前」の参加目的と、その根底にある「本音」

株式会社マイナビなどが毎年実施する大規模な調査を見ると、学生がインターンシップに参加する目的の上位には、毎年同じような項目が並びます。

調査で見る「建前」の参加目的
  • 事業内容や仕事内容の理解: 実際にどのような仕事をするのかを知りたい。
  • 業界や企業の雰囲気を知るため: 社風や働きやすさを肌で感じたい。
  • 自分の適性を見極めるため: その仕事が自分に向いているか判断したい。

これらはもちろん嘘ではありません。しかし、最も重要なのは、これらの目的のさらに先にある「最終目標」です。なぜ仕事内容を理解したいのか?なぜ社風を知りたいのか?その答えは、突き詰めれば一つに集約されます。

「就職活動を有利に進め、納得のいく形で内定を得るため」

スキルアップや自己分析も、すべてはこの最終目標を達成するための手段です。インターンシップは、もはや単なる「教育機会」や「職業体験」ではなく、就職活動そのものの一部、あるいは本番に向けた最重要ステップとして位置づけられているのです。

2. 多様化する「内定獲得」へのホンネ

「内定が欲しい」という本音も、学生の状況や価値観によって、そのニュアンスは様々です。企業側は、学生がどのようなスタンスで自社のインターンシップに参加しているのかを見極める必要があります。

学生の本音(タイプ) 具体的な思考
① 本命・内定直結型 「この会社が第一志望。インターンシップで高評価を得て、早期選考ルートに乗りたい。可能なら、このまま内定が欲しい」
② お試し・見極め型 「興味はあるけれど、本当に自分に合う会社か分からない。リアルな職場を体験して、入社するかどうかを判断したい」
③ 踏み台・経験値稼ぎ型 「正直、本命は他にある。しかし、この有名企業のインターンシップ経験は、本命企業の選考で有利に働くだろう」
④ とりあえず・安心材料型 「周りがみんな参加しているから不安。どこでもいいから、とにかくインターンシップに参加したという事実を作っておきたい」

内閣府の「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査」などから想定される学生の動機を分類

特に近年は、複数のインターンシップに参加するのが当たり前になっており、③の「踏み台」と考える学生も決して少なくありません。しかし、これは必ずしもネガティブなことではなく、それだけ学生が戦略的にキャリアを考えている証拠とも言えます。

3. インターンシップを「ファン作り」の場に変える広報戦略

インターンシップの価値は、参加した学生を採用することだけではありません。たとえ採用に至らなくても、参加者が自社の「ファン」となり、良い評判を広めてくれる。そんな「採用広報のハブ」として機能させることが、現代の採用戦略では極めて重要です。

学生が学生を呼ぶ「ファン化」施策
  • インターン後も続く「特別コミュニティ」の運営: 参加者限定のSlackやLINEグループを作り、社員との交流会や限定イベントの情報を発信。継続的な接触は「自分は特別扱いされている」というロイヤリティを高めます。
  • 「アンバサダー制度」の導入: 満足度の高かった学生に、大学内での広報活動や後輩への紹介を依頼する制度です。インセンティブ(活動費、社員との食事会など)を用意することで、学生は主体的に動き始めます。
  • リファラル(紹介)採用の仕組み化: 「友だち紹介キャンペーン」を設計し、インターン参加者が紹介した友人が選考に進んだ場合、紹介者・被紹介者の双方にメリット(ギフト券、面接確約など)を提供します。
  • 本命でない学生も「虜」にする体験価値の提供: 「踏み台」型の学生にこそ、最高の体験を提供しましょう。「想像以上に面白かった」「社員が魅力的だった」というポジティブな驚きは、SNSや口コミで拡散されやすく、結果的に自社への志望度を高めることにも繋がります。

4. 中小企業・不人気業種だからこそ「人間関係」で勝負する

「うちみたいな知名度のない会社に学生は来ない」と諦める必要はありません。特に、超一流企業を目指す層以外の多くの学生にとっては、企業のネームバリューよりも、「心理的な満足度」が志望度を大きく左右します。大手には真似できない、深く、温かい人間関係こそが最強の武器になります。

「居心地の良さ」と「尊敬」を生むコミュニケーション術
  • 「社会人と学生」の壁を壊し、「仲間」として向き合う: 最もやってはいけないのが、上から目線でダメ出しをすることです。否定的なフィードバックは学生の心を閉ざします。「どうすればもっと良くなるか一緒に考えよう」というスタンスで、一人のプロジェクトメンバーとして対等に接しましょう。
  • 「必要とされている」感覚を醸成する: 「君がまとめてくれたデータのおかげで、会議がすごくスムーズに進んだよ。ありがとう」といったように、具体的な感謝を伝えることが重要です。自分の仕事が役に立っているという実感は、強い動機付けになります。
  • 人生の先輩として「尊敬される」ポイントを作る: 仕事の話だけでなく、キャリア相談や個人的な悩みにも親身に耳を傾ける。社長や役員が、偉大な経営者としてだけでなく、「魅力的な一人の人間」として接することで、会社へのエンゲージメントは飛躍的に高まります。
  • コミュニケーションスタンスを再設定する: これまでの「教えてやる」というスタンスを捨て、「共に成長するパートナー」として学生との距離感を再設定することが不可欠です。企業と学生ではなく、人と人との関係性を築くことが、学生に「この人たちと働きたい」と思わせる一番の近道なのです。

知名度や待遇で劣るなら、「圧倒的なコミュニケーションの質」と「心理的安全性」で勝負する。これが、中小企業が採用市場で勝ち抜くための本質的な戦略です。

インターンシップは、もはや企業が学生に「機会を与えてあげる」場ではありません。学生が自らのキャリアを戦略的に設計するために企業を「評価し、選ぶ」場へと変化しています。

自社の状況を正しく理解し、学生の本音に寄り添い、採用活動を「点」ではなく「線」で捉える。参加者全員をファンに変えるくらいの熱量で設計されたインターンシップこそが、企業の未来を創る人材を惹きつけるのです。

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