新卒 若手採用の難化 – 変化する人材市場への戦略

「新卒採用が年々難しくなっている…」
「若手人材の獲得競争が激化して、応募すら来ない」
日本全体で人材不足が叫ばれる中、特に新卒や20代の若手人材の採用は、多くの企業にとって喫緊かつ最も困難な課題となっています。かつてのような「大卒一括採用」のモデルが通用しなくなり、企業は新たな戦略を模索せざるを得ない状況です。

本記事では、この新卒・若手採用の難化の現状を、公的機関の客観的な調査データに基づいて詳細に分析します。高校卒業者と大学卒業者それぞれの市場動向、そして今後、若年人口が予想以上に早く減少していくという人口動態データも踏まえ、未来の採用市場を予測します。その上で、若手人材に固執することなく、幅広い世代や海外人材の登用といった視野を広げ、戦略的に採用に取り組むことの重要性を説きます。

日本の人手不足の現状と若年層採用の難化

日本全体で少子高齢化が進み、労働力人口が減少する中で、多くの企業が人手不足感を訴えています。帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」(※1)によると、正社員の人手不足を感じる企業の割合は2024年1月時点で53.4%に達し、コロナ禍以降で過去最高を更新しています。これは、半数以上の企業が深刻な人手不足に直面していることを示しています。

さらに、この人手不足は企業の経営にも大きな影響を与えており、東京商工リサーチや帝国データバンクの調査(※2)によると、「人手不足倒産」の件数が急増しています。2024年1月〜5月には累計118件(前年同期比2.1倍)と過去最多を記録するなど、失業率や有効求人倍率といったマクロな数字だけでは見えにくい、企業の切実な経営課題となっています。

人手不足を感じる企業の割合(全産業)

上記グラフが示す通り、人手不足感は一時的なものではなく、高水準で推移し続けています。企業は、既存社員の高齢化や退職、そして新たな事業展開に必要な若手・新卒人材の確保に苦戦しており、その競争はますます激化しています。
※1:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」(2024年1月)より引用。
※2:東京商工リサーチ、帝国データバンクの「人手不足倒産の動向調査」(2024年)に基づく記述。

新卒採用市場のデータ – 高卒・大卒別の動向

新卒採用市場の厳しさは、学歴別に見ても顕著です。高校卒業者と大学卒業者では、有効求人倍率の推移に異なる傾向が見られます。

新規高卒・大卒の有効求人倍率の推移(公的調査に基づく推定)

厚生労働省の「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職状況」や「大学等卒業者の就職状況調査」といった公的データ(※3)によると、高卒者の有効求人倍率は、大卒者よりもはるかに高い水準で推移しています。特に2020年以降、大卒の倍率が一時的に低下した時期でも、高卒の倍率は高い水準を維持し続けています。

高卒・大卒別に見る採用の難しさ

高卒採用の厳しさ
高卒者の有効求人倍率は、2024年3月時点で3倍以上(全産業平均)を記録するなど、非常に厳しい状況が続いています。これは、求人企業に対して学生の数が圧倒的に少ない「超売り手市場」であることを意味します。高卒者を求める企業は、早期の接触、手厚い情報提供、そして働きやすい環境のアピールがより一層重要になります。
大卒採用の競争激化
大卒者の有効求人倍率は、高卒ほどではないものの、依然として「1倍」を大きく超える水準で推移しており、企業間の獲得競争が激化しています。学生は「安定」だけでなく「成長機会」「働きやすさ」「社会貢献」といった多角的な要素で企業を選んでおり、企業はより戦略的なブランディングと個別のアプローチが求められます。

※3:厚生労働省「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職状況」、文部科学省「大学等卒業者の就職状況調査」など、公的機関の発表データに基づく記述。

加速する若年人口減少と採用の未来

日本の新卒・若手採用の難しさは、今後さらに加速すると予測されています。その背景にあるのは、予想よりも早く進む日本の人口減少、特に若年人口の急減です。

15-24歳人口の推移予測(総務省「人口推計」に基づく推定)

総務省の「人口推計」や国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(※4)によると、15歳〜24歳の若年人口は今後数十年にわたって大幅に減少していくことが予測されています。特に2030年代以降は、その減少ペースが加速する見込みであり、これは企業が新卒・若手人材を確保することが、現在よりもはるかに困難になることを意味します。

未来の採用市場への影響

新卒採用の「量」の限界
そもそものパイが小さくなるため、これまでのような新卒の一括大量採用は、一部の大手企業を除き極めて難しくなります
採用競争のさらなる激化
希少な若手人材を巡る企業間の競争は、今以上に熾烈になります。企業は、より早期から学生と接点を持ち、入社を促すための「選ばれる理由」を明確にする必要があります。
採用チャネル・戦略の再構築の急務
従来の採用手法だけでは立ち行かなくなるため、インターンシップ、SNS採用、リファラル採用、ダイレクトリクルーティングなど、多角的なチャネルの活用と、それぞれに合わせた戦略の再構築が求められます。

※4:総務省統計局「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」に基づく記述。

今後の採用難易度シミュレーション

現在の人口減少トレンドと企業側の採用競争激化を踏まえ、今後5年・10年で若手採用の難易度がどれほど増すか、簡易的なモデルで試算してみましょう。

【試算の前提】

  • 採用難易度を測る指標を「採用競争力指数(Recruitment Competition Index: RCI)」と仮定。
  • RCI = (募集企業数 × 企業あたりの採用努力) ÷ ターゲット求職者数
  • 現在のRCIを基準値「1.0」とする。
  • ターゲット求職者数(15-24歳人口):5年後 約10%減(係数 **0.9**)、10年後 約20%減(係数 **0.8**)。(上記「15-24歳人口の推移予測」グラフに基づく)。
  • 募集企業数:現状維持(人手不足により、採用を諦める企業も一定数いるため、大きくは変動しないと仮定)。
  • 企業あたりの採用努力(予算、工数、ブランディングなど):人手不足の深刻化に伴い、各企業が人材確保に投じるリソースは増加すると仮定。5年後 **1.3倍**、10年後 **1.6倍**に増加。

【シミュレーション結果】若手採用の難しさの増大

今後5年間で 採用難易度は約1.4倍に上昇!

今後10年間で 採用難易度は約2.0倍に上昇!

※本試算は、上記前提に基づく簡易的なモデルであり、実際の採用難易度を保証するものではありません。しかし、人口減少と採用競争の激化が、採用活動に与える影響の大きさを理解するための参考となります。

この試算が示す通り、企業が何もしなければ、若手人材の確保は現在よりも劇的に困難になることが予測されます。特に、現時点でも採用に苦戦している企業は、今後5年以内に抜本的な戦略転換を図らなければ、必要な人材を確保できなくなるリスクが高いと言えるでしょう。

視野を広げる採用戦略 – 多様な人材の登用

新卒・若手人材の採用がますます困難になる中で、企業は「若手に固執する」だけでは持続的な成長は見込めません。多様な人材に目を向け、視野を広げた戦略的な採用が不可欠です。

取り組むべき多角的な採用戦略

1. 幅広い世代の人材活用
ミドル・シニア層の経験や知見を積極的に活用しましょう。定年延長制度、再雇用制度の充実、若手との協業促進など、年齢に関わらず活躍できる環境を整備することが重要です。
2. 海外人材の積極的登用
外国人留学生の採用、特定技能制度の活用、現地からの採用など、海外に目を向けた採用を強化しましょう。日本語学習支援や生活サポート、異文化理解の促進など、手厚い受け入れ体制が成功の鍵です。
3. 女性活躍推進の強化
育児・介護との両立支援制度の充実とその利用促進、女性管理職の登用、キャリアパスの明確化など、女性がいきいきと長く働ける環境を整備し、採用へと繋げます。
4. 障害者雇用の促進
法定雇用率の遵守だけでなく、障害者が能力を最大限に発揮できるような合理的配慮や職務設計、サポート体制を構築し、多様な働き手を確保します。

まとめ – 若手採用の「常識」をアップデートする

日本の人材市場は、若年人口の減少という不可逆的な変化に直面しており、新卒・若手採用の難化は今後も加速していくでしょう。もはや「若手だけ」に固執する採用戦略では、企業の成長は望めません。

重要なのは、データに基づき現状を正確に認識し、若手だけでなく、ミドル・シニア層、女性、外国人材、障がい者など、多様な人材へと採用ターゲットを広げることです。そして、それぞれの層が持つニーズに応える魅力的な働き方や企業文化を創造し、戦略的に発信していくことが求められます。

「働き方改革」「DX推進」「採用ブランディング」といった多角的な取り組みを複合的に実施し、「人」を「経営資源」として捉え、長期的な視点での投資を行う企業こそが、人材不足の時代においても持続的な成長を実現できるでしょう。新卒・若手採用の「常識」をアップデートし、未来を見据えた戦略的採用を今すぐ始めましょう。

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