働き方の多様化が進む現代、副業はもはや特別な選択肢ではありません。深刻化する人手不足への対応策として、そして優秀な人材を確保・維持するための戦略として、企業は「副業」とどう向き合うべきか。最新のデータと具体的な事例から、その答えを探ります。
副業のリアル – 最新データで見る働き方の変化
厚生労働省の調査によると、現在副業をしている人の割合は約1割にのぼります。これは、10人に1人が本業以外の仕事を持っていることを意味し、労働市場における副業の存在感が着実に増していることを示しています。
出典:厚生労働省「副業・兼業に係る実態把握の内容等について」より
さらに注目すべきは、「今後、副業をしてみたい」と考えている層の存在です。副業は、収入増だけでなく、スキルアップや自己実現、人脈形成の手段として捉えられており、労働者のキャリア観の変化を象徴しています。
企業と個人が共に得をする副業モデルとは
副業には様々な形がありますが、その「契約形態」や「仕事の性質」によって、個人と企業の双方にもたらすメリットやリスクは大きく異なります。やみくもに解禁・受容するのではなく、理想的な形を見極めることが重要です。
注意が必要な副業のパターン
まず、企業・個人ともにリスクが高まりやすいのが、時給制のアルバイトに代表される「時間拘束型」の副業です。例えば、本業の終業後に飲食店で深夜まで働くといったケースでは、以下のような問題が実際に起きています。
- 過重労働と本業への支障
- 睡眠時間が削られ、疲労が蓄積することで本業の集中力が低下。生産性の悪化や思わぬミスに繋がります。
- 労働時間管理の複雑化
- 本業の会社は、法律上、副業先の労働時間と通算して管理する義務があります。これにより、時間外労働の計算などが複雑化し、企業の労務管理コストが増大します。
- キャリア形成への不利益
- 働く本人にとっても、本業のスキルとは関連性のない単純作業に従事した場合、キャリアアップに繋がりにくいというデメリットがあります。
理想的な「Win-Win」の副業モデル
一方で、企業と個人の両方が利益を得やすいのは、自身の専門スキルを活かす「成果物納品型(プロジェクト型)」の副業です。
これは、Webサイト制作、記事執筆、コンサルティングなど、「〇〇を完成させて納品する」という契約形態です。時間ではなく成果で評価されるため、働く側は柔軟なスケジュールで仕事を進められます。企業(本業の会社)にとっても、労働時間の通算義務が生じにくく、管理しやすいメリットがあります。
働く本人は専門性を高められ、副業を依頼する企業は必要なスキルを柔軟に確保できる。そして本業の会社も、従業員が外部で得た知見を社内に還元してくれる可能性があるなど、関係者それぞれに利益がある理想的な形と言えます。
目指すべき姿・考慮すべき点 | |
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個人 |
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企業 |
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副業解禁で企業が直面する課題と対策
副業人材の活用はメリットが大きい一方、企業側は従業員の副業を許可する際に、適切なルールを設ける必要があります。実際に起こりうる問題と、その対策を整理します。
課題 | 企業の対策 |
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労働時間の管理と健康阻害 | 届出制を導入し、副業先での労働時間を自己申告させる。長時間労働が懸念される場合は面談を行い、必要に応じて業務量の調整を促す体制を整えます。 |
情報漏洩のリスク | 副業に関する服務規程や誓約書を整備し、守秘義務について改めて注意喚起する。競合他社での副業を禁止または許可制にするなどのルールを明確化します。 |
本業への業務支障 | 「本業の業務に支障をきたさないこと」を副業許可の明確な条件として設定。定期的な1on1ミーティング等で従業員のコンディションを把握し、コミュニケーションを密に取ります。 |
これからの時代の採用と働き方
採用成功へのロードマップ
人手不足が常態化するこれからの時代、従来の「正社員を1から育てる」という採用モデルだけでは限界があります。採用を成功させるためには、働き方の変化を正しく理解し、戦略をアップデートする必要があります。
- 現状の認識
- 労働者の約1割が既に副業を行っており、これは今後も増加傾向にあります。副業は「お小遣い稼ぎ」から「キャリア形成の一環」へと意味合いが変化しています。この流れは止められません。
- 企業の課題
- 変化に気づかず、旧来の雇用観に固執してしまうことが最大のリスクです。副業を「禁止」するだけでは、優秀な人材の採用機会を逃し、従業員の離職を招く可能性すらあります。リスク管理(労働時間、情報漏洩)の仕組みを構築することが急務です。
- 未来への対策
- 副業をリスクではなく、「外部の知見やスキルを社内に取り込むチャンス」と捉え直しましょう。明確なルールを設けた上で副業を解禁し、さらに自社でも「副業人材」を積極的に活用する。これにより、必要な専門スキルを柔軟に確保し、社内人材の活性化にも繋がります。これが、人手不足の時代を乗り切るための、現実的かつ効果的な採用戦略です。