グローバル化が進む中、外国人材の採用は多くの企業にとって不可欠な戦略となっています。しかし、日本人と外国人の求職者が仕事に求める価値観や優先順位には、文化や社会背景に根ざした明確な違いが存在します。これらの違いを理解せずに採用戦略を進めると、ミスマッチや離職につながるリスクがあります。
本記事では、公的な調査結果や信頼できるデータに基づき、日本人と外国人が仕事に求める要素の違いを具体的に分析し、これからの時代に対応するために企業が採用戦略で重視すべき点、そして採用活動における「タブー」を明確に解説します。
1. 公的調査に見る「仕事に求めるもの」の共通点と違い
主に厚生労働省の「就業構造基本調査」や、OECD(経済協力開発機構)による国際的な意識調査の結果から、仕事に求める価値観を比較します。
共通する最重要項目 – 待遇と安定
日本人・外国人に関わらず、仕事に求める要素のトップは常に賃金や給与といった「待遇」、そして「雇用の安定性」です。これは基本的な生活基盤に関わるため、文化や国籍を超えた普遍的なニーズと言えます。
- 共通項目例
- 給与額(生活の質を担保する)
- 福利厚生(住居手当、健康保険など)
- 会社の安定性(倒産リスクの低さ)
| 仕事に求める上位項目 | 日本人求職者の傾向(国内調査例) | 外国人求職者の傾向(国際比較調査例) |
|---|---|---|
| 最重要(待遇・安定) | 給与・賃金、雇用の安定 | 給与・報酬体系、ワークライフバランス |
| 差別化要素 | 仕事内容への興味、働きがい、人間関係の良さ | 成長の機会、スキル開発、キャリアパスの明確さ |
考察1 – 人間関係と成長機会の優先度の違い
上記の調査から明確な違いが見えてきます。
- 日本人 協調性を重んじる文化背景から、職場の人間関係の円滑さや雰囲気を重視する傾向があります。これは、仕事の成果よりもプロセスや環境を重視する価値観の表れとも言えます。
- 外国人 成果主義的な環境に慣れている求職者が多く、個人のスキルアップや短期間での昇進といったキャリアに直結する成長機会を重視します。給与が上がらなくてもスキルが得られるなら投資と考える層が多いのが特徴です。
2. 待遇以外の差別化ポイント – 柔軟性と透明性
グローバル人材を採用し定着させるために、企業は単なる給与額の提示だけでなく、働き方の柔軟性と評価の透明性を打ち出す必要があります。
働く「場所」と「時間」の柔軟性
多くのグローバル企業で普及しているリモートワークやフレックスタイム制度は、外国人材にとって必須のインフラと見なされつつあります。日本の企業ではまだ出社前提や時間管理が根強く残るため、この点で差別化が可能です。
- データによる示唆 OECD Better Life Indexなどの国際調査では、日本は「仕事の拘束時間の長さ」において依然として高いスコアを示しており、外国人にとって「柔軟性」は生活の質を大きく左右する項目となっています。
- 求められる対応 「原則リモート可」「コアタイムなしのフレックス」など、具体的な制度を明確に提示することが、日本人を上回る待遇と感じさせる要素になります。
評価とキャリアパスの透明性
外国人材、特に若年層は、自分の成果がどのように評価され、それが昇給や昇進にどのように繋がるかを非常に重視します。
- 日本の課題 年功序列や、上司との「阿吽の呼吸」による曖昧な評価制度は、外国人材にとって最大のストレス要因となります。
- 求められる対応 「OKR(目標と主要な結果)」や「MBO(目標管理制度)」といった具体的な評価フレームワークを導入し、評価基準、昇給幅、次のポジションへの要件をすべて文書化して公開することが、応募獲得に繋がります。
3. これからの採用で明確にすべき「タブー」と対処法
国際的な労働慣行や人権意識の高まりにより、採用活動や職場環境において、避けるべき「タブー(禁忌事項)」が明確化しています。これらを理解し、排除することが、グローバルな競争力を保つ上で重要です。
絶対的なタブー – 採用差別とハラスメント
国籍、人種、宗教、性別、性的指向、出身地に基づく採用差別は、国際的なコンプライアンスにおいて最も重大なタブーです。また、日本企業で慣習的に見られるパワーハラスメントやセクシャルハラスメントも、国際的な視点では許容されません。
- 具体的なNG行為例
- 応募時に国籍や宗教に関する質問をすること。
- 面接で家族構成や私的な人間関係について立ち入って聞くこと。
- 採用選考に「日本的なマナー」(お辞儀の角度など)を評価基準に含めること。
日本固有のタブー – 「察し」と「長時間労働前提」
外国人材にとって、日本特有の非言語的なコミュニケーションや、過度な長時間労働は、理解不能な「タブー」として映ります。
- 「察して行動する」文化 外国人社員に対しては、曖昧な指示や「空気を読む」ことを強いるのではなく、5W1Hに基づいた明確で論理的な指示を出すことが、定着の鍵となります。
- 「残業が美徳」の文化 採用面接や説明会で「うちは残業が多いが、やりがいがある」といった表現は、外国人材からは「非効率で時代遅れの企業」と見なされ、応募辞退に繋がる可能性が高いです。
4. 調査の考察と採用戦略のまとめ
日本人と外国人の仕事に求める価値観の違いを考察すると、グローバル採用を成功させるための鍵は、「日本的な『和』の重視」から「国際的な『個』の重視」へのシフトにあると結論づけられます。
| 価値観の差異 | 日本人が重視する点(和の重視) | 外国人が重視する点(個の重視) |
|---|---|---|
| 最優先事項 | 人間関係の円滑さ、職場の雰囲気 | キャリアパスの明確さ、個人の成長 |
| 評価基準 | チームへの貢献、努力のプロセス | 達成した成果、評価の透明性 |
| 働き方 | 出社前提、決まった時間での業務 | リモートワーク、フレックスタイムなど柔軟性 |
グローバル採用の成功は、待遇を超えた「個人の成長・評価の公平性・働き方の柔軟性」という非金銭的な価値をいかに具体的に提示できるかにかかっています。

