日本の賃金動向 – 調査データから読み解く都道府県別・業種別の格差と変化

人手不足が深刻化する日本において、賃金水準の動向は企業の採用力と経済活動に直結します。本記事では、公的機関が公表した賃金に関する最も新しい調査データを基に、日本の賃金構造がどのように変化しているかを詳細に分析します。

特に、都道府県間の格差や業種別の賃金水準に焦点を当て、企業が賃金戦略を策定する上での重要な視点を提供します。

1. 賃金動向の全体像 – 調査データに基づく平均値

日本の賃金の全体的な水準と増加傾向は、主に厚生労働省が毎年公表する大規模な統計調査によって把握されます。

公的調査結果の概要
  • 調査機関: 厚生労働省
  • 調査名: 賃金構造基本統計調査
  • 公表年月: 2025年11月公表(調査対象期間 2025年6月分)

この調査結果(2025年6月分)によると、日本の一般労働者の所定内給与額の平均は約32万円(男女計)となり、前年からの増加傾向が確認されています。これは、人手不足と物価高を背景とした企業側の賃上げ努力が反映された結果と言えます。


2. 都道府県別賃金格差 – 地域による大きな偏り

賃金は地域によって大きな差があります。地方企業が人材を確保するためには、この地域間格差を理解することが出発点となります。

主要地域の所定内給与額(平均)

(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」2025年6月分に基づく)

地域 都道府県 平均給与額(月額) 賃金水準の特徴
関東 東京 約37万円 全国最高水準。大企業本社や金融・IT産業が集中。
東海 愛知 約33万円 製造業の集積地として高水準を維持。
近畿 大阪 約32万円 西日本の中核として安定した水準。
地方圏 沖縄・宮崎など 約25万円 全国平均を大きく下回る地域差が顕著。
地域格差の考察
  • 東京圏の一強体制: 東京の賃金水準は他地域を圧倒しており、地方企業が大都市圏の人材を採用する際の大きな障壁となっています。
  • 地方の戦略: 地方で人材を確保するためには、賃金格差を埋めるため、リモートワークの推進や地域手当・住宅手当の充実など、非金銭的な待遇で差別化を図る必要があります。

3. 業種別賃金動向 – IT・専門サービス業の優位性

賃金の水準は、産業構造によっても大きく異なります。特に、人手不足が深刻で付加価値が高い業種では、賃金が上昇傾向にあります。

主要業種の平均賃金(月額)

(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」2025年6月分に基づく)

  • 情報通信業: 約40万円

    DX需要の高まりからITエンジニアの賃金水準が継続して高く、トップクラスを維持しています。

  • 学術研究、専門・技術サービス業: 約38万円

    コンサルティングや研究開発といった専門知識を要する分野は、高水準です。

  • 製造業: 約32万円

    生産現場の人材不足対策として賃上げが進んでいますが、業種内の職種によって差があります。

  • 宿泊業、飲食サービス業: 約26万円

    労働集約型産業であり、最低賃金の影響を受けやすいことから、他の業種に比べて低い水準にあります。ただし、人手不足が最も深刻なため、賃上げ率は高い傾向が見られます。

業種間格差の考察

賃金データは、市場が「専門性と付加価値」を高く評価していることを示しています。特に情報通信業と専門サービス業は、人手不足に加え、世界的な市場競争力を背景に賃金水準を引き上げています。企業は、単純労働力の確保だけでなく、高度人材の採用に向けて、これらの高水準な賃金動向を意識した戦略が必要です。


4. まとめ – 賃金データから導く採用戦略

日本の賃金動向は、全体として緩やかに上昇しているものの、「地域」と「業種」による二極化が進んでいます。企業が競争力を維持し、人材を確保するためには、データに基づいた戦略的な賃金・待遇設計が求められます。

賃金動向の傾向 企業が直面する課題 取るべき戦略
平均賃金の緩やかな上昇 採用コストの増加と人件費負担の増大 業務の自動化による生産性向上
地域・業種間の格差拡大 大都市・高賃金業種への人材流出 地方では「職住近接」や柔軟な働き方を待遇に含める
IT・専門職の優位性 高度人材の獲得競争の激化 リスキリング投資と成果に基づいた透明性の高い評価制度を導入

賃金データは、日本企業が「労働力の量」から「労働力の質」への転換期にあることを示しています。

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