迫る日本の労働力クライシス – 女性・高齢者の活躍の先にある「唯一の選択肢」

「労働力不足」が叫ばれて久しい日本。しかし、統計を見るとこの10年、労働力人口は減少するどころか、むしろ増加してきました。その原動力は、女性と高齢者の労働参加です。しかし、その伸びしろも限界が目前に。本記事では、公的データに基づき日本の現状を解き明かし、未来の採用戦略で企業が取るべき具体的なアクションを提示します。

1. 「人手不足」でも増え続けた日本の労働力

少子高齢化が進む中、日本の労働力人口は2013年頃を底に、驚くべきことに増加傾向を維持してきました。2023年には、労働力人口は約6,925万人に達し、10年前と比較して200万人以上も増えています。この「想定外」の成長を支えたのは、紛れもなく女性と高齢者という二つの大きな力でした。

女性労働力率の目覚ましい上昇

特に変化が著しいのが女性の労働参加です。2023年の女性の労働力率(15歳〜64歳)は75.2%に達し、10年前の65%前後から大幅に上昇しました。これは働き方改革や保育施設の整備などが進み、育児と両立しながら働く女性が増えたことが大きな要因です。

高齢者の就業意欲の高まり

同時に、元気で働く意欲のある高齢者も急増しました。2023年の65歳〜69歳の就業率は52.0%と、ついに半数を超えました。70歳〜74歳でも34.0%に達しており、「生涯現役」という意識が社会に浸透し、貴重な担い手として日本の経済を支えてきたのです。

ポイント
この10年間、日本の労働力は女性の社会進出高齢者の労働参加という二つの国内要因によって奇跡的に維持・拡大されてきました。しかし、この流れは永遠には続きません。

出典: 総務省統計局「労働力調査」

2. すでに限界域 – データが示す「頭打ち」の現実

女性と高齢者の活躍は日本の強みですが、その「伸びしろ」は果たして今後も期待できるのでしょうか。国際比較データを見ると、厳しい現実が浮かび上がります。

国際比較グラフ – G7における女性労働参加率 (15-64歳)

かつて「M字カーブ」に象徴されるように、日本の女性の労働参加は出産・育児期に落ち込むことが課題とされてきました。しかし、近年の上昇は目覚ましく、今やアメリカやドイツといった主要国を上回り、G7の中でもトップクラスの水準に達しています。

これ以上の大幅な上乗せは困難

このグラフが示すのは、日本の女性の労働参加率は、これ以上他の先進国を参考に引き上げる余地がほとんど残されていないという事実です。高齢者に関しても、65歳~69歳の就業率が5割を超え、健康上の理由などから、ここからの劇的な上昇を期待するのは現実的ではありません。国内の潜在労働力を掘り起こすというこれまでの手法は、いよいよ限界を迎えつつあるのです。

3. 残された成長エンジン – 外国人材という選択肢

国内の担い手の増加が頭打ちになる中、今後の日本の労働力を維持・成長させるための選択肢は、実質的に一つに絞られつつあります。それが、外国人材の受け入れです。

すでに200万人を突破した外国人労働者

厚生労働省の発表によると、2023年10月末時点で日本で働く外国人労働者数は過去最多の約205万人に達しました。10年前の約70万人から3倍近くに急増しており、特に製造業、建設業、医療・福祉、サービス業といった人手不足が深刻な分野で不可欠な存在となっています。

政府方針の転換
政府もこの状況を認識しており、2024年には従来の「技能実習制度」を廃止し、人材確保と育成を目的とした新制度「育成就労」を創設。さらに、特定技能制度の対象分野拡大も進めており、今後、外国人材の受け入れが国家戦略としてさらに加速することは間違いありません。

出典: 厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」等

人口構造の変化という逆らえない大きな波の中で、外国人材はもはや「助っ人」ではなく、日本経済を共に支える「パートナー」として捉え、いかに彼らから「選ばれる国・企業」になるかを真剣に考えるべきフェーズに来ています。

4. 採用を成功に導くための具体的なステップ

では、企業はこれからどのように採用戦略を立て、実行していけばよいのでしょうか。これまでと同じやり方は通用しません。「女性・高齢者の採用」と「外国人材の採用」では、難易度もアプローチも全く異なることを前提に、備える必要があります。

Step 1 – これまでと同じではないと知る

これまでの人手不足対策は、国内にいる潜在的な労働力の掘り起こしでした。例えば、求人広告に「主婦(夫)歓迎」「シニア活躍中」「柔軟なシフト」といった表現を加えるだけで、応募者を集めることができました。社内制度の調整も、勤務時間の変更や既存の福利厚生の適用範囲を広げるなど、比較的簡単なものが中心でした。ターゲットが日本人であるため、価値観や文化の基盤が共有できていたことが、この「容易さ」の背景にあります。

Step 2 – 「採用の常識」が変わることを理解する

一方、外国人材の採用は、これまでとは全く異なるアプローチが求められます。まず「どうやって募集するか」という採用チャネルが違います。国内の求人サイトだけでは不十分で、海外のエージェントや現地コミュニティとの連携が必要になります。次に「どうアピールするか」も異なります。彼らが仕事に求めるものは、給与だけでなく、キャリアパスの明確さ、家族の呼び寄せ、宗教への配慮など多岐にわたります。さらに、ビザ申請、言語の壁、文化摩擦といった「想定される問題」も、これまで経験したことのないものばかりです。

Step 3 -「大きな変化」に備え、実行する

外国人材の採用は、単なる採用活動の延長ではありません。それは企業文化や組織構造そのものの変革を意味します。これまでのように一部の制度を微調整するだけでは不十分です。評価制度をゼロベースで見直し、多様な言語や文化を前提としたコミュニケーションルールを策定し、管理職には異文化マネジメントのスキルを習得させ、会社が生活インフラまでサポートする。こうした「これまでよりも大きな変化」を受け入れ、実行する覚悟がなければ、グローバルな人材獲得競争の中で「選ばれる企業」になることはできません。

目次