そのクリック、本物ですか? – Indeedの事例で見る、CPC求人広告の”透明性”問題と対策

「クリックされた分だけ費用が発生する」—。合理的で分かりやすいCPC(クリック課金)モデルは、Indeedをはじめとする多くの求人広告プラットフォームで主流となっています。しかし、そのクリックが本当に求職者の意志によるものだと、100%信じることができるでしょうか?

近年、特に2024年頃にかけて、応募を伴わないクリックが増加し、採用コストが不透明な形で高騰する事態が、多くの採用担当者の間で問題視されていました。本記事では、この事例を基にCPC広告に内在するリスク構造を解き明かし、企業が自社の広告費を守るために取るべき自己防衛策について解説します。


【事例研究】Indeedで何が起きていたのか?

2023年後半から2024年にかけて、採用市場ではある種の「異変」が囁かれていました。それは、国内最大の求人検索エンジンであるIndeedにおいて、「クリック数は増えるのに、応募数が伸び悩む」という現象です。

観測された問題点

多くの企業が、以前と同じ予算、同じ求人内容であるにも関わらず、以下のような状況に直面しました。

  • 広告予算の消化スピードが速まる。
  • クリック数は増加しているが、応募率は低下傾向にある。
  • 結果として、CPA(応募単価)が跳ね上がる。

この原因として、採用担当者の間では「bot(ボット)」、すなわち機械的なプログラムによる自動的なアクセスが増加したのではないか、という見方が広がりました。本来、求職者ではないbotによるクリックにも課金されてしまい、無駄な広告費が発生していた可能性が指摘されたのです。

プラットフォームの対応と現状(2025年)

こうした状況を受け、Indeedは水面下でbot対策を強化したと見られています。2025年に入り、多くの担当者から「昨年に比べてトラフィックの質が改善し、CPAが安定してきた」という声が聞かれるようになりました。これは、プラットフォーム側が不正なアクセスを検知し、排除するアルゴリズムを高度化させた結果と考えられます。

しかし、この一件は私たちに重要な教訓を残しました。それは、CPC広告は、その仕組み上、常に不正クリックのリスクと隣り合わせであるという事実です。


なぜこの問題は起きるのか?- CPC広告と「アドフラウド」の構造

Indeedに限らず、GoogleやYahoo!のリスティング広告など、あらゆるCPC広告プラットフォームは「アドフラウド(広告詐欺)」と呼ばれる問題に直面しています。不正なクリックは、主に以下の要因によって発生します。

1. 悪意のないボット(クローラー、スクレイパー)

他の求人サイトや研究機関などが、情報を収集するために使用するプログラム(クローラー)が広告をクリックしてしまうケース。これらは悪意はありませんが、広告主にとっては無駄なコストとなります。

2. 悪意のあるボット

広告費を不正に詐取する目的で、人間のように振る舞い、広告を繰り返しクリックする悪質なプログラム。アドフラウドの最も大きな要因です。

3. 競合他社による妨害クリック

競合企業の広告を意図的にクリックし、広告予算を浪費させる妨害行為。手動で行われることも、プログラムが使われることもあります。

プラットフォーム側は、IPアドレスの監視や行動分析、AIによるパターン検知などで常に対策を講じていますが、新たな手口が次々と生まれるため、不正クリックを100%防ぐことは極めて困難です。この「いたちごっこ」の構造を、広告主は理解しておく必要があります。


広告主が取るべき自己防衛策

プラットフォームの対策だけに頼るのではなく、広告主自身が自社の広告費を守るための視点を持つことが重要です。

1. 「応募数」だけでなく「採用成功数」までを追う

CPC広告のレポート画面で、クリック数や表示回数だけを見て一喜一憂してはいけません。採用活動の最終目的は、単に応募者を集めることではなく、「採用した人材が入社後に活躍・定着する」という採用成功です。したがって、クリックから応募に至るCVR(応募率)やCPA(応募単価)はもちろんのこと、どの媒体からの応募者が採用に至り、活躍しているかという「採用成功数」までを追い、媒体ごとの真の費用対効果を見極める必要があります。

2. 【自社の採用サイトへ誘導できる場合】アナリティクスツールでトラフィックを分析する

Indeedのようにプラットフォーム内で応募が完結するモデルが増えていますが、もし自社の採用サイトや応募フォームに直接誘導できる広告媒体を利用している場合は、Google Analyticsなどのツールを導入し、トラフィックを分析することが有効です。「海外からの不自然なアクセス」「特定のIPアドレスからの大量アクセス」「滞在時間0秒のクリックの急増」などは、botを疑う有力なサインとなります。これらのデータは、媒体側に異常を報告する際の客観的な証拠にもなります。

3. 媒体の担当者と密に連携し、異常を報告する

プラットフォーム内で応募が完結する場合でも、応募者の質に明らかな変化があったり、CPAに異常な変動が見られたりした場合は、決して泣き寝入りせず、速やかに広告プラットフォームの担当者に報告・相談しましょう。詳細なデータと共に報告することで、調査や、場合によっては費用の返金に繋がるケースもあります。

4. 費用対効果を多角的に評価する

一つの媒体に依存するのは危険です。CPC広告だけでなく、掲載課金型の求人サイトや成功報酬型の人材紹介など、複数の採用チャネルを併用しましょう。それぞれのチャネルのCPAや採用成功数を比較検討することで、自社にとって最適な広告予算の配分(ポートフォリオ)を見つけることができます。


CPC求人広告は、正しく使えば非常に強力な採用ツールです。しかし、その手軽さと引き換えに、常に「クリックの質」という不透明なリスクを内包していることを忘れてはなりません。

広告主は、プラットフォームを盲信するのではなく、「信頼しつつ、検証する」という視点を持ち、自社の採用活動における最終的な成果(=採用成功)に対して責任を持つ必要があります。データを注意深く観察し、異常のサインを見逃さず、賢く自己防衛すること。それが、これからのCPC求人広告との正しい付き合い方と言えるでしょう。

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