「話がうまい人」に騙されない採用術 – 地味でも結果を出す「実行者」を見抜く質問法

「面接では非常に優秀に見えたのに、入社後のパフォーマンスが全く伴わない」。多くの採用担当者が、一度は経験する苦い失敗ではないでしょうか。特に、コミュニケーション能力が高いとされる候補者ほど、その実態を見極めるのは困難です。

従来の雑談に近い面接は、 practicedな「話がうまい人」にとっては、容易に突破できる関門に過ぎません。本当に見抜くべきは、愛想の良さの裏にある**本当の「思考力」と「人間性」**です。本記事では、ペーパーテストに頼らず、会話の中で候補者の地力と適性を見抜くための、実践的な手法を紹介します。

1. 「思考の体力」を測る – 処理能力を見抜く3つの口頭テスト

仕事の本質は、情報を正確に理解し、整理し、課題を特定する能力にあります。この「思考の体力」とも言える処理能力は、会話の中に簡単なテストを組み込むことで、効果的に測定できます。

手法1:情報整理テスト(リスニング能力の確認)

あえて少し複雑な状況を口頭で早口に説明し、その要点を整理させる方法です。

質問サンプル:
「今から、ある顧客からのクレーム内容を話しますので、よく聞いてください。『A社は5年来の取引先で、製造業の会社です。先週金曜に納品した最新版のソフトウェアVer2.0に、帳票出力機能がクラッシュするバグがありました。A社の経理部長は、今週水曜の役員会でその帳票を使う予定で、非常に困っています。弊社のサポート担当の田中が代替案を提示しましたが、それも上手くいきませんでした。現在、先方はVer1.5へのロールバックを要求しています。』…さて、この話における、最も優先すべき課題、登場人物、そして期限を整理して教えてください。」

見抜ける能力:情報の取捨選択能力、短期記憶力、論理的整理力。話がうまいだけの人は、意外と話を聞いていないことが多く、ここで的確に答えられません。

手法2:構造的問題発見テスト(論理的思考力の確認)

一見普通に見える状況の中に、構造的な欠陥を仕込み、それを見抜けるかを試します。

質問サンプル:
「仮に、弊社に商品Aと商品Bがあるとします。Aは利益率が非常に高いが、売れる市場は小さい。Bは利益率が低いが、市場が大きく大量に売れる。そして、営業チームの評価制度は、利益額ではなく『売上総額』だけで決まるとします。この組織構造について、何か問題があるとしたら、それは何だと思いますか?」

見抜ける能力:因果関係の理解、論理的推察力、ビジネスの構造的理解力。優秀な人材は即座に「営業担当は利益率の低いBばかりを売るようになり、会社全体の利益を損なう可能性がある」という構造的欠陥を指摘できるはずです。

2. 「できない」状況で見える本質 – 人間性と誠実性の見極め方

ビジネスの世界では、常に答えがわかっているわけではありません。未知の課題や困難な状況にどう向き合うか、その姿勢にこそ、その人の本質が現れます。面接では、あえて候補者が**「答えられない」「できない」状況**を作り出すことが極めて有効です。

意図的に難しい質問を投げかける

候補者の専門外の質問や、少し意地悪な思考実験を投げかけてみましょう。重要なのは、その「答え」ではなく、答えられない状況での「反応」です。

⭕ 採用すべき人材の反応 ❌ 採用を避けるべき人材の反応
素直に「知らない」と言える
「申し訳ありません、その分野は専門外で存じ上げません。よろしければ教えていただけますか?」と、誠実かつ知的好奇心を示す。
知ったかぶりをする
曖昧な言葉や専門用語を並べて、その場を取り繕おうとする。不誠実さの表れ。
思考のプロセスを示す
「直接の答えは分かりませんが、私なら〇〇という観点から考え始めます」と、未知の問題へのアプローチ方法を示そうとする。
不機嫌になる・怒り出す
答えられないことでプライドが傷つき、表情が曇ったり、攻撃的な態度になったりする。ストレス耐性が低い。
態度が変わらない
難しい質問をされる前と後で、謙虚な姿勢やにこやかな態度が変わらない。精神的に安定している。
投げ出す・思考停止する
「難しいですね…」と言って黙り込んだり、考えることを放棄したりする。困難な仕事から逃げる傾向。

特に、流暢に話していた候補者が、答えに詰まった瞬間に不機嫌になったり、態度が横柄になったりするケースは少なくありません。その態度の変化こそ、普段の雑談では決して見抜けない、ストレス下におけるその人の素顔なのです。

採用面接の目的は、候補者と仲良く雑談することではありません。限られた時間の中で、その人物がビジネスという厳しい環境下で、本当に成果を出し、チームに貢献できるかを予測することです。

表面的なコミュニケーション能力は、練習すれば誰でも上達します。しかし、情報を正確に処理する思考力や、困難な状況で見せる誠実な態度は、その人が長年かけて培ってきた本質的な能力であり、人間性そのものです。今回ご紹介したような、少しだけ負荷のかかる質問を投げかけることは、候補者を試すための意地悪な罠ではありません。それは、お互いのミスマッチを防ぎ、入社後に本当に活躍してもらうための、誠実な確認作業なのです。

耳障りの良い言葉だけに惑わされず、その裏側にある「思考の体力」と「人間性」に光を当てること。それこそが、地味でも着実に会社を支えてくれる、本物の人材を見抜くための鍵となります。

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