物価高は「採用の追い風」になる – データで見る、収入増を求める潜在転職者とスキマバイト層の動向

食料品や光熱費の値上がりが、家計を直撃する──。長引く物価高は、多くの生活者にとって深刻な問題です。しかし、この経済的な圧力は、見方を変えれば、企業の採用活動にとってかつてない「追い風」となり得ます。

なぜなら、収入増への切実なニーズが、これまで潜在的に市場にいなかった層をも動かし、労働市場全体の流動性を高めているからです。本記事では、最新の調査データを基に、物価高を背景に「転職」や「副業」へと動き出す人々の実態を解き明かし、この社会的な変化をどう採用のチャンスに変えるべきかを解説します。

1. データが示す労働市場の地殻変動 – 物価高が人々の背中を押す

「生活が苦しい」という漠然とした感覚は、今や具体的な「行動」として、労働市場に明確な変化をもたらしています。

1. 転職理由のトップに躍り出た「収入増」

大手人材会社パーソルキャリアの調査によると、転職を考える最大の動機として「給与を増やしたい」が、他の理由を大きく引き離してトップとなっています。

転職を考える理由ランキング(2025年)
給与を増やしたい 62.5% キャリアアップしたい 37.2% 新しい仕事に挑戦したい 34.1% 労働時間を減らしたい 16.8%
出典:パーソルキャリア株式会社「doda 転職理由ランキング」最新版を基に作成

注目すべきは、キャリアアップや仕事内容といった前向きな動機よりも、「収入」という直接的な経済理由が圧倒的な1位である点です。これは、これまで待遇に大きな不満がなくても会社に留まっていた「安定志向層」が、生活防衛のために、より高い給与を求めて転職市場に流入し始めていることを示唆しています。

2. 副業・スキマバイトで「追加収入」を得るのが当たり前に

転職だけが選択肢ではありません。株式会社リクルートの調査によれば、副業や兼業を希望する人の割合は年々増加しており、その理由は極めて明確です。

副業・兼業を始めた理由(複数回答)
58.1% 収入を増やしたいから
27.5% 自分が活躍できる場を
広げたいから
18.9% 様々な人脈を
構築したいから
出典:株式会社リクルート「兼業・副業に関する動向調査」を基に作成

特に、タイミーのようなスキマバイトアプリの利用者は急増しており、「少しでも家計の足しにしたい」という切実なニーズを持つ主婦層や、本業の収入だけでは足りない若手会社員などが、新たな労働力の担い手として登場しています。

2. 物価高を「採用の好機」に変える、新しいアピール戦略

この「収入増への強い動機」を理解すれば、企業の採用メッセージは自ずと変わります。あなたの会社の求人情報は、単なる「仕事の案内」ではなく、求職者の「生活防衛の解決策」として提示されるべきです。

戦略A:給与で勝負できる企業の王道

もし他社よりも高い給与を提示できるのであれば、その事実を最大限に活用すべきです。曖昧な表現は避け、「未経験者でも月給30万円以上を保証」「入社2年目の平均年収実績:520万円」といった、具体的で安心感のある数字を求人広告の最も目立つ場所に記載しましょう。これが、現在の市場で最も強力な武器となります。

戦略B:給与での差別化が難しい企業の新しい戦い方

多くの中小企業にとって、大手のように給与だけで勝負するのは困難です。しかし、戦い方は他にもあります。それは、「副業・兼業への理解」を新たな魅力として打ち出すことです。

求職者の「追加収入を得たい」というニーズに寄り添い、「副業OK」「残業ほぼ無しで、プライベートの時間を確保できます」といったメッセージを明確に発信するのです。これは、「私たちの会社は、あなたの本業以外の活動も応援します」という、共感と理解の姿勢を示すことにつながります。この「副業歓迎」というスタンスは、そのまま追加収入を求めるパート・アルバイト層への強力なアピールに繋がります。

戦略Bの実践:副業・スキマバイト希望者への具体的なアピール

追加収入を求める層に対しては、「即金性」と「柔軟性」を徹底的にアピールします。「日払い・週払いOK」「1日3時間・週2日から勤務可」といったメリットを明確に打ち出し、「履歴書不要」「スマホで簡単応募」など、すぐに行動に移せる手軽さを強調することが、応募に直結します。

物価高という社会的な逆風は、労働市場に大きな流動性をもたらしました。これまで転職を考えていなかった層が動き出し、新たな収入源を求める人々が副業・兼業市場に参入しています。これは、採用活動を行う企業にとって、まさに千載一遇のチャンスです。

求職者の「生活を少しでも楽にしたい」という切実な願いに対し、あなたの会社が「具体的な解決策」を提示できるかどうかが、今後の採用競争の勝敗を分けます。圧倒的な給与を提示するか、あるいは、副業を許容する柔軟性で応えるか。いずれにせよ、企業の誠実な姿勢と、求職者の現実に寄り添うメッセージこそが、この好機を最大限に活かすための最も確実な戦略となるでしょう。

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