Indeedのクリック単価は、なぜ上がり続けるのか?“有料広告だけ”に頼る採用の限界

「Indeedの広告予算を増やしたのに、応募数が一向に増えない…」多くの採用担当者が、そんなジレンマに陥っています。採用のインフラとなったIndeedですが、その利用企業と掲載求人数の増加に伴い、競争は激化の一途をたどっています。
本記事では、クリック単価(CPC)が高騰し続ける市場の現状をデータで解説し、なぜ「お金をかけるだけ」の採用戦略が限界を迎えるのか、その構造的な理由と、これからの時代に求められる具体的な打ち手を提言します。

① データで見る「Indeed広告」の過熱と限界

Indeedで成果を出すのが難しくなっている背景には、明確な2つの数値的トレンドがあります。それは「掲載求人数の増加」と、それに伴う「クリック単価(CPC)の高騰」です。

HRテクノロジー市場の調査レポート(株式会社HR総研など)によれば、日本のIndeedに掲載される求人件数は常に数百万件を超え、飽和状態に近いと言われています。一方で、働き手の人口は減少しているため、限られた求職者を多くの企業が奪い合う構図が生まれています。

その結果、人気職種や人手不足が深刻な業界では、クリック単価が前年比で30%以上も高騰するケースも珍しくありません。下のグラフは、一般的な職種のクリック単価の推移をモデル化したものですが、年々上昇しているのが見て取れます。

クリック単価(CPC)の推移モデル

この状況は、採用活動における「負のスパイラル」を生み出します。

  1. 求人件数が増加
  2. 企業の露出競争が激化
  3. クリック単価(CPC)が高騰
  4. 同じ予算でクリック数が減少
  5. 応募数が伸び悩む

② なぜ「お金だけ」では勝てないのか?3つの理由

この負のスパイラルの中で、ただ広告予算を増やすだけの戦略は、効果が薄いばかりか、極めて危険です。その理由は3つあります。

理由1:入札の「天井効果」

Indeedの広告はオークション形式ですが、クリック単価を上げ続ければ無限に表示されるわけではありません。そもそも仕事を探している人の数には限りがあるため、一定以上の単価を投下しても、クリック数の伸びは鈍化していきます。費用対効果は急激に悪化し、予算を浪費するだけの「マネーゲーム」に陥ってしまいます。

理由2:求人票という「受け皿」の不在

いくら高額な広告費をかけて求職者を求人ページに呼び込んでも、そのページ(仕事内容、待遇、写真など)が魅力的でなければ、応募ボタンを押すことなく離脱してしまいます。これは、穴の空いたバケツに、高いお金を払って水を注ぎ続けるようなものです。広告費を増やす前に、まずクリックの「受け皿」である求人票そのものの質を徹底的に見直す必要があります。

理由3:求職者の「横断的な比較検討」行動

求職者はIndeedで求人を見つけた後、必ずその会社名をGoogleで検索し、公式サイトや口コミサイトをチェックします。Indeed上の広告表示をいくら強化しても、Indeedの外での評判が悪ければ、最終的な応募には繋がりません。広告費は、あくまで「会社の玄関」に人を呼び込むための費用であり、家の中が魅力的でなければ意味がないのです。

③ 「Indeed依存」から脱却するための次の一手

では、企業は次にどのような手を打つべきでしょうか。重要なのは、Indeedを有力なチャネルの一つと認めつつも、それに依存しない多角的な採用戦略を構築することです。それぞれの手段が持つメリットと、現実的な難しさを理解した上で、自社に合った組み合わせを見つける必要があります。

ダイレクトリクルーティングで「攻める」

応募を「待つ」だけでなく、企業側から候補者に直接アプローチする「攻め」の採用手法です。BizReachやLinkedIn、doda Recruitersといったプラットフォームのデータベースを検索し、自社が求める人材に直接スカウトメールを送ります。

しかし、この手法もまた、けして簡単ではありません。優秀な人材には日々何十通ものスカウトが届くため、競争は極めて激しく、開封すらされないことも日常茶飯事です。また、コストも決して安くはありません。データベースの年間利用料で60万円~150万円以上、さらに採用決定時には理論年収の15%~20%程度の成功報酬が発生するのが一般的です。これは、経営の根幹を担うような重要ポジションを、時間をかけてでもピンポイントで狙い撃つための、高コスト・高精度な手法と理解すべきです。

リファラル採用を「仕組み化」する

社員の紹介(リファラル)経由の採用は、低コストで質の高い人材を確保できる、理想的な手法の一つです。しかし、多くの企業がその「仕組み化」に苦戦しているのも事実です。これは、リファラル採用が単なる制度ではなく、「文化」そのものだからです。

まず大前提として、社員が自社に満足し、エンゲージメントが高くなければ、大切な友人や知人を紹介しようとは思いません。その上で、紹介してくれた社員への正当なインセンティブ制度や、紹介プロセスを簡略化するツールの導入、そして経営層から「リファラル採用を重視している」というメッセージを継続的に発信し続ける地道な努力が必要です。また、紹介だからといって無条件で採用するのではなく、通常の選考フローで厳格にスキルやカルチャーフィットを見極めなければ、人間関係のしがらみから組織の質を低下させるリスクもあります。

自社からの「継続的な情報発信」で、ファンを創る

これは、すぐに応募に繋がらなくても、長期的な視点で未来の候補者を育成する活動です。「自社メディア」とは、単にブログを書くことだけを指すのではありません。自社の採用サイト、公式SNS(X, Instagram, Facebookなど)、技術ブログ、役員や社員個人の発信など、候補者が接触する可能性のある、あらゆる接点を多面化させることを意味します。

重要なのは、自社がターゲットとする人材が、どのプラットフォームを最も利用しているかを見極め、そこに最適化された情報を継続的に発信することです。例えば、若手エンジニアにアプローチしたいなら技術ブログやXが有効かもしれませんし、若手営業職なら社員の日常が見えるInstagramが響くかもしれません。これらの多面的な情報発信を通じて、今すぐ転職を考えていない「潜在層」に自社の魅力を刷り込み、「いつか働きたい会社」としてのブランドを構築していくのです。

④ 結論:採用チャネルの「ポートフォリオ」を組む

もはや、一つの採用チャネルだけで全ての採用ニーズを満たせる時代ではありません。

Indeedは、多くの人に自社を知ってもらうための「空中戦」を担う、強力なチャネルです。しかし、それと同時に、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用といった、ターゲットを絞った「地上戦」を組み合わせることが不可欠です。さらに、自社メディアでの情報発信は、それら全ての活動を支える「兵站」の役割を果たします。

Indeedは、採用活動の「入り口」として依然として極めて重要です。しかし、そこだけに頼る一本足打法は、市場の変化に極めて脆い。
複数の採用チャネルを組み合わせ、自社に合った「採用ポートフォリオ」を構築し、データに基づいて常にその配分を見直していく。それこそが、採用コストの高騰時代を生き抜く、唯一の道筋です。
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