自社の採用サイトやATS(採用管理システム)の応募率を向上させたいと考えたとき、「Indeed Apply」への対応は極めて強力な選択肢となります。しかし、単なる求人情報のクローリング連携とは異なり、その実装には技術的な理解と計画的な手順が不可欠です。
この記事では、Indeed Apply連携を実装する開発担当者やPMの方に向けて、開発前の準備から本番適用までの全工程を、現実的な課題やコード例を交えながら詳細に解説します。
前提知識 – Indeed Apply連携とは何か?
Indeed Apply(インディード・アプライ)とは、求職者がIndeedのサイトやアプリから離脱することなく、Indeed上で応募プロセスを完了できる機能です。まずは、これまでの連携方法との違いを明確に理解しましょう。
項目 | 従来型の連携 (Indeedが入り口) |
Indeed Apply連携 (Indeedで完結) |
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ユーザーフロー |
[ Indeedで求人発見 ] ↓ (応募ボタンをクリック) ↓ [ 自社の採用サイトへ移動 ] ↓ (独自のフォームに入力) ↓ [ 応 募 完 了 ] |
[ Indeedで求人発見 ] ↓ (Indeed応募ボタンをクリック) ↓ [ Indeed上でフォーム入力 ] (登録済みの情報が自動入力) ↓ [ 応 募 完 了 ] (データはAPIで企業へ) |
メリット |
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デメリット/考慮点 |
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準備と確認事項【Step 1】
実装に着手する前に、まず以下の前提条件と準備事項をチェックリストで確認しましょう。
- HTTPS対応のサーバー環境: 応募者情報は個人情報です。全ての通信はHTTPSで暗号化されている必要があります。
- 求人情報のXMLフィード: Indeedに求人情報を提供するためのXMLフィードが既に存在するか、または新規に作成可能か確認します。
- APIエンドポイントの用意: Indeedから応募者情報(POSTリクエスト)を受け取るためのAPIエンドポイントを作成できるサーバー環境が必要です。
- Indeedの公式ドキュメントの確認: Indeedのデベロッパー向けサイトで最新の仕様を確認します。特にXMLフィードと応募APIの仕様は必読です。
- 開発リソースの確保: 本連携に必要なエンジニアのアサイン、開発・テスト工数の見積もりを行います。
仕様設計 – 連携の心臓部を作る【Step 2】
連携の核となる「XMLフィードの拡張」と「応募受付API」の仕様を設計します。
1. XMLフィードの拡張仕様
既存の求人XMLフィード内の、各<job>
タグ内に、Indeed Apply用の設定を追加します。
<job>
<title><![CDATA[Webエンジニア]]></title>
...
<!-- Indeed Apply連携のための設定ここから -->
<indeed-apply-data>
<indeed-apply-api api-version="2"><![CDATA[https://your-company.com/api/indeed/application]]></indeed-apply-api>
<indeed-apply-questions>
<question type="text" id="q1" required="true">
<label><![CDATA[あなたの長所を教えてください。]]></label>
</question>
</indeed-apply-questions>
</indeed-apply-data>
<!-- Indeed Apply連携のための設定ここまで -->
</job>
2. 応募受付APIの設計
Indeedから応募者情報を受け取るAPIを設計します。セキュリティを担保し、必要な情報を確実に受け取れる仕様にする必要があります。
- HTTPメソッド:
POST
- データ形式:
multipart/form-data
- 認証: Basic認証が推奨されます。IDとパスワードをIndeed側に共有し、リクエストヘッダーで検証します。
実装 – コードに落とし込む【Step 3】
設計した仕様に基づき、バックエンドとXMLフィード生成ロジックを実装します。
API開発における重要事項
- 冪等性の確保: 同じ応募通知リクエストを何度受け取っても、応募者が二重登録されないようにAPIを設計します。Indeed側のリトライ処理に備えるため、
IndeedApplicationId
をキーに重複チェックを行うのが一般的です。 - タイムアウト設定: Indeedからのリクエストは、通常2-3秒以内にレスポンスを返すことが推奨されます。重い処理は非同期化(キューイング)し、まず受付成功のレスポンスを返す設計を検討しましょう。
- ATS/外部システム連携: 受け取った応募データを自社のDBに保存すると同時に、利用しているATS(HERP, Workableなど)があれば、そのAPIを呼び出して候補者情報を作成する処理を組み込みます。これにより、既存の採用フローにシームレスに統合できます。
堅牢なエラーハンドリングの実装
応募データの取りこぼしは致命的な機会損失です。堅牢なエラーハンドリングを実装しましょう。
- 詳細なログ出力: エラー発生時には、リクエスト内容、エラーメッセージ、スタックトレースなどを詳細にログ出力し、原因究明を容易にします。
- 失敗通知フローの確立: APIがエラーを返す場合や、予期せぬエラーで処理が中断した場合、開発担当者や人事担当者に即座に通知(メール、Slackなど)が飛ぶ仕組みを構築します。
障害からの復旧 – 応募データ再取得の処理
自社システムのメンテナンスやネットワーク障害で、Indeedからの応募通知を一時的に受け取れなかった場合、どうすればよいでしょうか。このような事態に備え、Indeedは応募データを後から取得するための仕組みを提供しています。
Indeedの公式ドキュメントによれば、応募データをリストとして取得するAPIが用意されています。これを利用し、障害から復旧した際に、未取得の応募データを取得するバッチ処理などを実装しておくことが強く推奨されます。
テスト – 動作を保証する【Step 4】
実装が完了したら、入念なテストを行います。
履歴書データの検証
Indeed Applyでは、履歴書はファイルではなく、IndeedApply
というキーのJSON形式の構造化データとして送信されることがあります。このJSONデータを正しくパースできるかが重要です。
- JSONのパース: 受け取ったJSONデータをパースし、職務経歴、学歴、スキルなどの各項目が自社システムのDBに正しくマッピングされるか検証します。
- PDF/帳票の再生成: 必要であれば、パースしたJSONデータを基に、自社フォーマットの履歴書PDFなどをサーバーサイドで生成する機能を実装し、その表示が崩れないかを確認します。
申請と承認プロセス【Step 5】
テストが完了したら、いよいよ本番適用のためのプロセスに進みます。ここからは技術力だけでなく、コミュニケーションと忍耐が求められます。
【最重要】申請プロセスは「忍耐」が求められる
複数の実装企業から聞かれる実情として、Indeed Applyの承認プロセスは必ずしもスムーズに進むとは限りません。心構えとして以下の点を理解しておくことが、プロジェクト成功の鍵となります。
- 期間は長く見積もる: 申請から承認まで、最低1ヶ月、長い場合は3ヶ月程度を見ておきましょう。Indeed側のQAチームも多くの案件を抱えており、レビューの返答に数週間かかることもあります。
- 組織の壁を想定する: Indeed社内のビジネスサイド(営業担当)と開発サイド(QAチーム)で、情報連携がスムーズでない場合があります。話が食い違うことも想定し、粘り強くコミュニケーションをとる必要があります。
- 完璧を目指さず、修正を繰り返す: 一度で完璧な実装を目指すよりも、まずは動くものを提出し、Indeed側からのフィードバックを受けて修正する、というアジャイルな修正サイクルを繰り返す前提で計画を立てるのが正解です。最初から完璧なものはできないと割り切り、手戻りが発生することを織り込んでおきましょう。
まとめ: 計画的な実装と、現実的な期待値で臨もう
Indeed Apply連携は、採用成果に直結する重要なインフラ投資です。実装には技術的なハードルや、外部とのコミュニケーションコストが伴います。
本記事で紹介した手順と、特に申請プロセスにおける現実的な注意点を踏まえ、しっかりとした計画と「うまくいかない可能性」を織り込んだスケジュールを立てることが、プロジェクトを成功に導きます。