ニュースで耳にする「有効求人倍率」。1.1倍と1.2倍、その差はわずか0.1ですが、この数字が個々の企業の採用活動にどれほど大きな影響を与えるか、具体的に考えたことはありますか?ここでは、その「0.1の差」がもたらす採用難易度の変化を、実際のデータと具体的な数値で解説します。
有効求人倍率とは? – 基本の確認
はじめに、有効求人倍率の定義を確認しましょう。これは、公共職業安定所(ハローワーク)に登録されている月間の有効求職者数に対する有効求人数の割合を示すものです。
計算式: 有効求人倍率 = 有効求人数 ÷ 有効求職者数
倍率が1を上回ると、求職者一人あたり一件以上の求人がある「売り手市場(人手不足)」を意味し、1を下回ると求職者に対して求人が少ない「買い手市場(就職難)」を示します。
全国の有効求人倍率の推移(2020年〜2025年)
まず、近年の有効求人倍率がどのように変動してきたかを実際のデータで見てみましょう。以下の棒グラフは、各年の有効求人倍率の平均値を示しています。その劇的な変化にご注目ください。(※厚生労働省の公表データを基にしたグラフ)
2020年に新型コロナウイルスの影響で一時的に落ち込んだ後、人手不足は年々深刻化し、採用難易度が急激に上昇し続けていることが一目でわかります。
5年前との比較 – 採用はどれだけ大変になったか?
グラフのデータを用いて、5年前の2020年と現在(2025年)の採用環境を比較してみましょう。
- 2020年半ば:有効求人倍率は約 1.10倍。1人の求職者に対し、1.1件の求人がありました。
- 2025年半ば:有効求人倍率は約 1.38倍。1人の求職者に対し、1.38件の求人が存在します。
この差は0.28ポイント。一見小さく見えますが、採用の現場にとっては致命的な変化です。次のシミュレーションで、この「0.28」という数字の本当の重みを見ていきます。
「0.1の差」がもたらす採用難易度の変化
ある地域に、仕事を探している人が100人いると仮定して、1求人あたりの応募者期待値を計算します。
ケースA:有効求人倍率が1.1倍の場合(5年前)
計算: 100人(求職者) ÷ 110件(求人) = 1求人あたり 約0.91人
ケースB:有効求人倍率が1.38倍の場合(現在)
計算: 100人(求職者) ÷ 138件(求人) = 1求人あたり 約0.72人
この5年間で、1求人あたりの理論上の応募者数は0.91人から0.72人へ減少。
これは、応募者獲得の難易度が 約21%も上昇した ことを意味します。
あなたの会社の採用活動への影響
「5年前に比べて応募者が2割減る」という現実は、企業の採用活動に深刻な影響を及ぼします。
1. 採用競合の激化
パイ(求職者)の数は同じなのに、競合(求人)が増えることを意味します。これまでと同じ条件で求人を出していても、より魅力的な条件を提示する競合他社に候補者を奪われる確率が格段に高まります。
2. 採用基準の見直し圧力
応募者が集まらないため、これまで通りの採用基準を維持することが困難になります。「未経験者も可にする」「必須スキルを緩和する」といった、採用基準の見直しを迫られる可能性が出てきます。
3. 採用コストの増大
応募者を一人集めるための単価(求人広告費など)が上昇します。また、内定辞退を防ぐために、給与水準の引き上げや福利厚生の充実といった待遇改善が必要になり、人件費全体に影響します。
結論 -「0.1の差」を軽視せず、戦略的な採用活動を
有効求人倍率は、採用市場の温度感を測る重要な指標です。近年のデータは、採用難易度が急速に、かつ継続的に上昇していることを示しています。
5年前と比較して、採用市場は「応募者が2割減」に相当するほど厳しくなっています。これは、応募者数の減少、採用コストの増大、競合の激化に直結します。
自社の採用戦略が、現在の市場感(有効求人倍率)に適しているかを常に見直す必要があります。5年前と同じやり方では通用しません。求人内容の魅力向上、選考プロセスの迅速化、待遇の見直しなど、競合よりも一歩先んじるための能動的なアクションが不可欠です。