日本の多くの業界で、企業が採用活動に多大なリソースとコストを投じているにもかかわらず、望む結果が出ない「採用疲れ」が深刻化しています。これは単に採用担当者の疲弊に留まらず、企業の成長戦略のボトルネックとなっています。特に、サービス業や医療・介護分野ではその傾向が顕著です。
この採用難は、本当に「労働者がいない」という単純な問題なのでしょうか。本記事では、日本が既に女性や高齢者の労働参加率において国際的に極めて高い水準にあるという事実を踏まえ、ミスマッチや労働者側の要求との違いといった要因を分析します。採用疲れを解消するためには、従来の人員計画を見直すことからスタートし、ビジネス構造そのものの見直しが不可欠であると論じます。
1. 採用できない構造的な要因 ミスマッチと要求のギャップ
企業側は「人手不足」を訴えますが、求職者側からは「条件に合う求人がない」という声が上がります。このギャップこそが、採用疲れの直接的な原因です。
なぜ採用できないのか 3つのギャップ
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ギャップ1 労働条件のミスマッチ
求職者が求める給与水準や勤務時間(残業時間)が、企業側が提示できる条件と大きく乖離しています。特に、国際的な賃金水準と比較して日本の賃金が停滞しているため、優秀な若年層や専門職は、より待遇の良い企業や海外市場へと流出しています。
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ギャップ2 価値観のミスマッチ
Z世代を中心とした若年層は、仕事の「やりがい」や「社会貢献性」、そして「柔軟な働き方」を重視します。終身雇用や長時間労働を前提とした企業文化では、入社後のミスマッチが早期離職につながり、採用活動の努力が無駄になってしまいます。
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ギャップ3 企業の魅力の言語化不足
多くの企業が自社の真の魅力(強みと弱み)を客観的に言語化できず、曖昧な求人情報に頼っています。結果、求職者に響かず、広告費を投じても応募に至らない、あるいは質の低い応募ばかりが集まる状況が生まれています。
2. 日本の労働市場の特異性 国際的に見た「労働力供給の限界」
日本で「人手不足」が叫ばれる背景には、労働力人口の減少に抗うため、既に世界的に見て極めて高い水準で女性や高齢者が労働市場に参加しているという特異な実態があります。
世界トップクラスの労働参加率
総務省統計局やOECD(経済協力開発機構)のデータに基づくと、日本の労働参加率は先進国の中でも非常に高い水準にあります。
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女性の労働参加率の向上
特にM字カーブの解消が進み、25〜54歳女性の労働参加率は、欧米主要国と同等、あるいはそれを上回る水準に達しています(OECDデータ)。これは、女性が育児期を経て再び仕事に戻るケースが増えていることを示します。
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高齢者の労働参加率の突出
日本は65歳以上の労働参加率が先進国の中で群を抜いて高い状況です(厚生労働省、OECDデータ)。これは、高齢者が意欲と能力を持ち続けている証拠であると同時に、年金制度への不安や経済的な理由から、働かざるを得ない社会構造も反映しています。
つまり、日本は既に「労働力供給の限界」に非常に近いところにいると言えます。多くの人が既に働いているため、従来の条件では「さらに人を雇う」という発想自体が、物理的に難しくなっているのです。
3. 採用疲れの処方箋 抜本的なビジネスの見直し
労働市場の構造的な限界を認識し、採用疲れを解消するためには、従来の「足りない分を外部から補充する」という発想を捨て、「今いる人数でどう事業を回すか」という視点への転換が不可欠です。
処方箋1 人員計画の根本的な見直し
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「これまで通り」の目標を捨てる
「昨年と同じ人数が今年も必要」という前提をまず疑います。現在の労働参加率の高さから見て、従来の採用目標を達成できる可能性は低いです。目標未達を前提とした事業計画を策定し、採用コストを業務効率化投資に振り替える勇気が必要です。
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リテンション(定着)を最優先
新規採用よりも、既存社員の離職を防ぐことの方が、コストも労力も圧倒的に少なくて済みます。給与制度の透明化、柔軟な勤務体系の導入など、リテンション施策を最優先すべきです。
処方箋2 ビジネスの効率化とDXへの本気度
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非コア業務の徹底的な自動化・外部化
採用活動を続ける前に、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIを活用し、ルーティンワークや事務作業を徹底的に自動化します。次に、アウトソーシング可能な業務を切り離し、社員を付加価値の高い業務に集中させます。
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労働生産性の向上をKPIに
採用人数ではなく、「一人当たりの付加価値額」といった労働生産性の向上を、事業部門の最重要評価指標(KPI)に設定します。これにより、現場が自発的に効率化に取り組む動機付けが生まれます。
4. まとめ 採用成功は「採用しない努力」から始まる
日本の採用疲れの根本的な原因は、既に労働力の限界に達した市場に対し、企業が依然として「過去の必要人数」を追いかけている点にあります。
処方箋はシンプルです。ミスマッチ解消のために労働者の要求に応じると同時に、採用目標そのものを見直し、効率化によって必要人数を減らす努力を最大限に行うことです。採用活動の成功は、もはや採用担当者だけの責任ではなく、ビジネスモデルと経営戦略の見直しにかかっています。
採用疲れを乗り越える鍵は、「人がいないなら、人でなくても回せる仕組みを作る」という、経営層の本気の決断にあります。

