これまで採用活動の王道とされてきた「SEO対策」。しかし、生成AIの急速な台頭により、人々の情報探索行動は根底から変わりつつあります。検索エンジンへの依存度が低下する今、企業は求職者とどう出会えばよいのでしょうか。本記事では、最新の調査データを基に、これからの採用戦略のあり方を考察します。
検索エンジン時代の終焉?- AIが変える情報探索
近年、特に若年層を中心に、従来の検索エンジン離れが顕著になっています。知りたいことに対し、リンクの一覧ではなく直接的な「答え」を提示する生成AIは、情報収集の新たなスタンダードとなりつつあります。
「生成AIの登場後、従来の検索エンジンを利用する頻度が減った」と回答した人は42%にのぼる。
この変化は、採用活動に直接的な影響を及ぼします。
これまでのように「東京 営業 求人」といったキーワードで検索する求職者が減れば、検索結果の上位に自社の求人ページを表示させるSEOの効果は必然的に薄れていきます。「待ち」の姿勢では、もはや求職者と出会うことすら難しくなるのです。
これからの採用活動を支える「新・両輪」
検索エンジンからの流入が期待できなくなる時代、企業は自ら積極的に情報を発信し、求職者との直接的な接点を創出していく必要があります。その戦略の中心となるのが、「オウンドメディア(自社媒体)」と「SNS」という新たな両輪です。
① 採用の“本拠地” – オウンドメディアの再強化
オウンドメディア、特に自社の採用サイトは、これからの採用活動における「本拠地」としての役割を担います。求人媒体の情報だけでは伝わらない、企業の魅力や文化を発信する最も重要な場所です。
求職者の約75%は、求人サイトなどで企業を知った後、応募前にその企業のホームページを訪れて詳細な情報を確認する。
このデータが示す通り、採用サイトは応募の意思決定を左右する最後の砦です。単なる求人票の転載ではなく、社員インタビューや「働く一日の流れ」、独自の福利厚生、企業理念などを充実させ、「この会社で働きたい」と思わせる魅力的なコンテンツで求職者を惹きつける必要があります。
② 接点を作る“発見エンジン” – SNSの戦略的活用
採用サイトが「本拠地」なら、SNSは求職者との出会いを生む「発見エンジン」です。日々多くの人が利用するSNSは、もはや単なる交流の場ではありません。AIによる高度なレコメンド機能によって、ユーザーが検索すらせずとも、興味関心に合った情報が次々と表示されます。この仕組みが、採用活動に革命的な変化をもたらします。
- 1求職者に「転職したい」という目的が発生する
- ↓
- 2自ら「地域 職種」などのキーワードで検索する
- ↓
- 3検索結果の中から企業を見つけ、訪問する
- 1企業が、SNS上で需要の高い形式(ショート動画、TIPS等)で、自社の魅力を発信する
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- 2AIが投稿内容や閲覧者の興味を分析し、最適なユーザーにリコメンド(おすすめ)表示する
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- 3転職潜在層が「検索せず」に企業を発見し、興味を持つ
この「発見」の仕組みこそがSNSの最大の強みです。人気の投稿はシェアや「いいね」を通じてさらに拡散され、これまで接点がなかった層にまで企業の存在を知らせてくれます。パーソル総合研究所の調査によれば、転職活動者のうち20代の半数以上が「企業のSNSアカウントを閲覧して職場の雰囲気を確かめている」と回答しており、SNSが企業研究の重要なツールとなっていることがわかります。
重要なのは、SNSで興味を持った求職者を、詳細な情報が網羅された自社の採用サイト(オウンドメディア)へ誘導し、応募に繋げるという一貫した動線を設計することです。
「検索されるのを待つ」から「発信して見つけてもらう」時代へ
AIの台頭による検索エンジンの利用率低下は、採用におけるSEOの価値を相対的に引き下げました。もはや、求職者が自社を見つけてくれるのを「待つ」だけの採用戦略は通用しません。
これからの採用活動の成否は、①信頼性の高い情報を提供する充実したオウンドメディアを構築し、②SNSを通じて能動的に接点を作り、ファンを育てるという、2つの活動をいかに連携させられるかにかかっています。
この新しい環境は、単に求人情報を掲載するだけでなく、自社の魅力を主体的に「発信」し、求職者との「関係」を築くことができる企業にとって、むしろ大きなチャンスと言えるでしょう。