外国人材採用の新制度を徹底解説 – 新設「育成就労制度」の変更点と企業がすべきこと

深刻な人手不足に直面する日本ですが、政府は外国人材の受け入れに関する制度を大きく転換させようとしています。技能実習制度に代わる「育成就労制度」の創設、そして東南アジアやインドからの高度人材獲得競争の本格化。これらの変化は、日本企業の採用戦略にどのような影響を与えるのでしょうか。本記事では、最新の政策動向を具体的に解説し、これからの時代を勝ち抜くための採用戦略を考えます。

制度の大転換 – 「技能実習」から「育成就労」へ

長年、日本の産業を支えてきた技能実習制度ですが、「安価な労働力の確保」という側面が強く、人権問題などの批判も絶えませんでした。そこで政府は、2024年にこの制度を抜本的に見直し、人材育成と確保を目的とした「育成就労制度」の創設を決定しました。これは単なる名称変更ではなく、制度の根幹を揺るがす大きな変化です。

最大のポイントは、「育成」と「キャリアアップ」に主眼を置いている点です。これまでの技能実習制度では原則として認められなかった「転籍(転職)」が一定の条件下で可能になり、労働者本人の意向やスキルに応じたキャリア形成がしやすくなります。企業にとっては、これまで以上に受け入れ後の定着や育成への取り組みが問われることになります。

比較項目 旧 技能実習制度 新 育成就労制度
制度の目的 国際貢献(技能移転) 人材育成と人材確保
転籍(転職) 原則不可 同一分野内で要件を満たせば可能(例 – 1年超の就労、技能検定合格など)
キャリアパス 特定技能への移行は一部に限られる 特定技能制度への円滑な移行を前提に設計
受入企業の役割 実習計画の実施 育成計画の策定・実施、キャリア相談支援など、より重い責任

この変更により、企業は「実習生」としてではなく、自社の未来を担う「正社員候補」として外国人材と向き合う必要が出てきました。給与や待遇はもちろんのこと、日本語教育のサポートやキャリアプランの提示など、魅力的な労働環境を提供できなければ、人材の流出は避けられないでしょう。

高度人材獲得競争 – 東南アジア・インドが主戦場に

育成就労制度が現場労働力の確保を目的とする一方、政府は専門技術や知識を持つ「高度人材」の獲得にも力を入れています。特に、経済成長が著しい東南アジア諸国(ベトナム、インドネシアなど)やIT大国インドは、優秀な若手人材の宝庫として注目されています。

具体的な政策としては、以下のような取り組みが加速しています。

  • 特定技能2号の対象分野拡大
    熟練した技能を持つ人材が長期にわたり日本で働けるよう、対象分野が大幅に拡大されました。これにより、多くの業種で外国人材がキャリアを継続しやすくなります。
  • 特別高度人材制度(J-Skip)の導入
    学歴や職歴、年収などが一定水準以上のトップレベル人材に対し、優遇された在留資格を付与。世界中の優秀な頭脳を日本に呼び込むことを目指します。
  • 未来創造人材制度(J-Find)の創設
    海外のトップ大学を卒業した若者が、日本で就職活動を行うための在留資格を創設。将来有望な人材を早期に確保する狙いです。

これらの動きは、もはや国内の日本人学生や転職者だけをターゲットにした採用活動では、企業の成長が望めない時代になったことを示唆しています。特にITエンジニアや研究開発職など、専門性が高い職種においては、海外に目を向けたダイレクトリクルーティングや、現地の大学との連携といった、これまで以上に積極的な採用戦略が不可欠となります。

待ったなしの介護業界 – 外国人材受け入れ拡大の現状

数ある業界の中でも、特に人手不足が深刻なのが介護業界です。日本の高齢化は加速し、経済産業省の試算では、2035年には約79万人もの介護職員が不足すると言われています。この危機的な状況を打開するため、外国人介護人材の受け入れは国策として急ピッチで進められています。

介護職員の需要・供給と不足数の推移予測(経済産業省資料等より作成)

グラフが示すように、何もしなければ需要と供給のギャップは開く一方です。この状況に対し、政府は以下のような対策で外国人材の受け入れを後押ししています。

介護分野における受け入れ拡大策
  • 在留資格「介護」の要件緩和
    実務経験ルートの見直しや、日本語能力試験の合格基準に関する柔軟な運用が検討されています。
  • EPA(経済連携協定)に基づく受け入れの強化
    インドネシア、フィリピン、ベトナムからの介護福祉士候補者の受け入れ枠を維持・拡大し、定着を支援します。
  • 特定技能・育成就労制度での積極的な活用
    介護分野は新制度においても重点分野と位置づけられ、より多くの人材が日本で介護の仕事に就けるよう環境整備が進められます。

介護施設や事業者を運営する企業にとっては、外国人材の受け入れはもはや選択肢ではなく必須の経営戦略です。言語や文化の壁を乗り越えるための研修制度の充実、外国人スタッフが安心してキャリアを築けるような評価制度の構築が、サービスの質を維持・向上させる上で極めて重要になります。

まとめ – 新時代を勝ち抜く外国人材採用 成功への道筋

これまでの情報を踏まえ、これからの企業が外国人材の採用を成功させるために、何をすべきかを「現状」「課題」「対策」の3つの視点でまとめます。

現状の認識
  • 国内の労働人口は減少し、人手不足は恒常的な経営課題となっている。
  • 政府は制度を大きく変更し、国策として外国人材の受け入れを本格化させている。
  • 単なる労働力ではなく、育成し、共に成長するパートナーとしての人材が求められている。
企業が直面する課題
  • 国内外の企業との人材獲得競争が激化し、採用コストが増大する。
  • 言語、文化、宗教の違いを乗り越え、多様性を受け入れる組織文化の構築が必要。
  • 受け入れた人材の育成と定着がうまくいかず、早期離職に繋がるリスクがある。
今すぐ始めるべき対策
  • 新制度を正しく理解し、自社に合った受け入れ計画を策定する。
  • 給与だけでなく、キャリアパスや教育制度を含めた魅力的な労働条件を提示する。
  • 全社的なサポート体制を構築する(日本語教育、相談窓口、異文化理解研修など)。
  • Indeedのような媒体に加え、海外に強い人材紹介会社やSNSなど、採用チャネルを多様化する。

外国人材の採用は、もはや特別なことではありません。日本の人口構造が大きく変わる中で、企業の持続的な成長を実現するための重要な経営戦略です。変化の波に乗り遅れることなく、多様な人材が活躍できる組織を構築できた企業こそが、これからの人材争奪戦を勝ち抜くことができるでしょう。

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