労働力不足が深刻化する日本にとって、外国人材の受け入れは持続的な経済成長に不可欠な要素となっています。
しかし、世界中の人々が日本での就業をどのように捉え、どの国からどのような人材が日本で働くことを希望しているのか、その実態は把握しにくいものです。
本記事では、公的機関の調査やレポートに基づき、日本への就業を希望する外国人の動向を多角的に分析します。各国の日本への好感度、就業までの手続き、日本との関係性を比較しやすい形で提示し、企業が今後の外国人材採用戦略をどのように構築すべきか、具体的な提言を行います。
日本での就業を希望する外国人の現状
日本に在留している外国人材の多くは、引き続き日本での就労を希望しています。しかし、その意欲には国籍によって差が見られ、円安などの経済情勢も影響を与えています。
日本での就労意欲の動向
マイナビグローバルが2024年4月に発表した「日本在留外国人の日本での就労意欲・特定技能に関する調査結果」によると、日本に在留する外国人材の91.0%が引き続き日本での就労を希望していることが示されています。これは高い水準ではありますが、2022年の調査より5.8ポイント減少しており、日本での就労意欲がやや低下している傾向が見られます。
この意欲低下の最大の理由として、「円安(38.5%)」が挙げられています。給料は一定でも自国通貨に換算した際の収入が減少するため、日本で働き続けることへの魅力が薄れている可能性があります。
※本グラフのデータはマイナビグローバル「日本在留外国人の日本での就労意欲・特定技能に関する調査結果」に基づきます。
主要国別分析 – 好感度と就業意欲
日本での就業を希望する外国人の動向は、国籍によって大きく異なります。
国籍別就労意欲と日本への好感度
マイナビグローバル調査(2024年4月)によると、日本での就労意欲は国籍によって差が見られます。 ミャンマー人材は97.0%、インドネシア人材は94.4%が今後も日本で働きたいと回答しており、高い就労意欲を維持しています。一方で、ベトナム人材は85.9%と、2022年調査より12.1ポイント減少しています。
日本への好感度も、就業意欲に影響を与える重要な要素です。アウンコンサルティングが2024年6月に発表した「世界14カ国・地域の親日度調査」では、各国からの日本への好感度や訪日意欲が示されています。
国籍 | 日本での就労意欲(%) (在留外国人) |
日本への好感度(%) (「大好き」+「好き」の合計) |
訪日意欲(%) (「すごく行きたい」+「行きたい」の合計) |
日本との関係性・特徴 |
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ベトナム | 85.9% (↓12.1pt) | 約90%以上 | 高い | 技能実習生・特定技能の主要送り出し国。経済連携が深く、日本への技術習得意欲が高い。 |
インドネシア | 94.4% (↑安定) | 約90%以上 | 高い | 高い成長性を持つ国。日本への就労意欲が高く、技能実習や特定技能で増加傾向。 |
ミャンマー | 97.0% (↑安定) | 約90%以上 | 高い | 近年、日本での就労が急増している国。勤勉で教育熱心な人材が多い。 |
フィリピン | データなし | 約90%以上 | 高い | 看護・介護分野で活躍。英語が公用語であり、日本文化への適応性も高い。 |
ネパール | データなし | 高め | 高め | 飲食業などで多く就業。経済的な理由に加え、教育意欲も高い層が多い。 |
中国 | データなし | 約50%前後 | 中程度 | 長年の経済的関係。技術・人文知識・国際業務、留学生が多い。好感度は変動あり。 |
韓国 | データなし | 約44.0% (上昇傾向) | 中程度 | 地理的・文化的に近い。技術・人文知識・国際業務、留学生が多い。 |
※日本での就労意欲はマイナビグローバル「日本在留外国人の日本での就労意欲〜」2024年4月調査、日本への好感度・訪日意欲はアウンコンサルティング「世界14カ国・地域の親日度調査」2024年6月発表データに基づきます。好感度データは「大好き」「好き」の合計値。
※本グラフのデータはアウンコンサルティング「世界14カ国・地域の親日度調査」2024年6月発表データに基づきます。
就業までの手続きの現状と課題
外国人材が日本で就業するまでには、在留資格の取得や更新、ビザ申請など、複雑な手続きが伴います。
就業手続きの主な流れと関係機関
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1. 在留資格の決定(企業と外国人の連携)
日本で働くためには、就労可能な在留資格(ビザ)が必要です。職種や学歴、経験に応じて「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」「技能実習」などが該当します。企業は、外国人材の学歴や職務経歴、希望する業務内容に基づいて適切な在留資格を判断します。 -
2. 在留資格認定証明書交付申請(企業側が主導)
外国人材を日本に呼び寄せる場合、企業が本人の代わりに「在留資格認定証明書」を入国管理局(出入国在留管理庁)に申請します。審査には数週間から数ヶ月かかることもあります。 -
3. ビザ(査証)の申請・取得(外国人材が主導)
認定証明書が交付されたら、外国人材が本国の日本大使館・領事館でビザ(査証)を申請します。ビザが発給されると、日本に入国できるようになります。 -
4. 日本入国・在留カード発行
空港での入国審査時に在留カードが発行され、正式に日本での居住・就労が認められます。
これらの手続きには、専門的な知識と多くの書類準備が必要となるため、行政書士などの専門家や、外国人材の受け入れに慣れた人材紹介会社と連携することが一般的です。
手続き上の課題と円滑化への動き
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手続きの複雑さと時間
特に中小企業にとっては、在留資格に関する専門知識の不足や、書類準備に要する時間、審査期間の長さが大きな負担となります。 -
日本語能力要件
多くの就労系在留資格では、ある程度の日本語能力が求められます。これは、就業を希望する外国人にとっても、受け入れる企業にとっても課題となることがあります。
政府は外国人材の受け入れを円滑化するため、特定技能制度の拡充やオンライン申請の導入など、制度改善を進めています。
今後の就業ポテンシャルが高い国と業種
これまでのデータと政策動向を鑑みると、今後も日本で就業する外国人が増加する可能性が高い国々や、特に人材ニーズが高まる業種が見えてきます。
就業ポテンシャルが高い国々
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インドネシア、ミャンマー、ネパール、スリランカ
これらの国々は、現在日本での就業意欲が高い、あるいは増加率が顕著な傾向にあります。経済成長途上にあり、日本での就業がスキルアップやキャリア形成に繋がると考える層が多く、今後のさらなる労働者増加が見込まれます。 -
特定技能分野の主要送り出し国
政府が特定技能の受け入れを拡大している分野(介護、建設、飲食料品製造など)における主要な送り出し国(例: ベトナム、フィリピンなど)からの人材は、引き続き日本での就業機会が多くなるでしょう。
特に人材ニーズが高まる業種
厚生労働省の「外国人雇用状況の届出状況」によると、以下の業種で外国人労働者の増加率が特に高く、今後もその傾向が続くでしょう。
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医療、福祉
超高齢社会の進展に伴い、介護士や看護師などの人材不足が深刻化しており、今後も外国人材への依存度が高まる見込みです。 -
建設業
インフラ整備や災害復旧の需要が高まる中、少子高齢化による若手入職者の減少が課題であり、外国人材が重要な労働力となっています。 -
製造業(特に飲食料品製造業、工業製品製造業)
日本の基幹産業であり、人手不足が慢性化しています。特定技能制度の活用により、今後も多くの外国人材が就業するでしょう。 -
宿泊業、飲食サービス業
インバウンド需要の回復とともに人手不足が顕著であり、特定技能制度の対象業種でもあるため、外国人材の需要が高まっています。
共生社会を実現する国別採用戦略
外国人材の採用を成功させ、彼らが日本で長期的に活躍するためには、単なる労働力としてではなく、互いの文化を尊重し理解し合う「共生社会」を企業内で築く視点が不可欠です。
そのためには、それぞれの国籍が持つ文化的特性、慣習、さらには税務や社会制度に関する基本的な理解が求められます。
主要国別 共生に向けたアプローチ
国籍 | 文化・習慣のポイント | 共生のための具体的アプローチ | 税務・法令等(共通以外)と関連窓口 |
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ベトナム | 家族を非常に重視、旧正月(テト)が重要。上下関係や目上への敬意が強い。 |
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社会保障協定は未締結。 【関連窓口】在日ベトナム大使館、特定技能登録支援機関。 |
インドネシア | イスラム教徒多数。1日5回の礼拝、ラマダン、ハラル食。右手で物を受け渡し。 |
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社会保障協定は未締結。 【関連窓口】在日インドネシア大使館、イスラム文化センター。 |
ミャンマー | 仏教徒が多い。温和、目上を敬う。水かけ祭り(ティンジャン)が重要。 |
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社会保障協定は未締結。 【関連窓口】在日ミャンマー連邦共和国大使館。 |
フィリピン | キリスト教徒(カトリック)多数。家族重視、陽気でフレンドリー。英語が広く通じる。 |
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社会保障協定は未締結。 【関連窓口】在日フィリピン共和国大使館。 |
中国 | 伝統的な家族観、集団主義。合理的、効率性を重視。メンツを重んじる。 |
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社会保障協定は一部締結。 【関連窓口】在日中国大使館・領事館。 |
ネパール | ヒンドゥー教徒・仏教徒。素朴で勤勉。家族の絆が強い。 |
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社会保障協定は未締結。 【関連窓口】在日ネパール大使館。 |
※上記情報は一般的な傾向と概説であり、個人の特性や最新の法令、協定状況は変動する可能性があります。 各国の正確な情報については、関連する大使館や公的機関のウェブサイト、専門家にご確認ください。
外国人材との共生は、単なる「労働力確保」を超え、企業の多様性とグローバル化を促進する戦略的な取り組みです。
各国の文化や習慣を理解し、尊重することで、外国人材は企業にとってかけがえのない戦力となり、共に新たな価値を創造できるでしょう。