「あなたの長所は?」「なぜ弊社を?」お決まりの質問と、用意された答えの応酬。そんな「儀式」のような面接で、本当に知りたいこと-候補者が入社後に定着し、活躍してくれるか-は、見えていますか?
建前と本音の乖離 – データが示す面接の実態
多くの候補者が面接で本音を語らないのは、単なる憶測ではありません。複数の調査が、その実態を明らかにしています。
大手転職サイト「エン転職」が2022年に行った調査によると、転職活動中の面接で「話を盛った(事実を誇張して伝えた)経験がある」と回答した人は45%にのぼりました。さらに、「嘘をついた経験がある」と回答した人も9%存在します。合わせると、過半数の候補者が、必ずしも事実だけを話しているわけではないことがわかります。
出典: エン・ジャパン株式会社「エン転職」ユーザーアンケート (2022年)彼らがそうする理由は「自分を良く見せたいから」「採用されたいから」に他なりません。つまり、面接が「評価される場」である限り、候補者はリスクを冒して本音を語るより、安全な「建前」を選ぶのです。この構造を理解しないまま面接を進めても、候補者の本当の姿は見えてきません。
面接の本当の目的 – 「埋める」から「育てる」へ
面接の目的は、単なる空席補充ではありません。自社で長期的に活躍し、成長してくれる「定着する戦力」を見つけることです。早期離職は、採用コストの損失だけでなく、既存社員の士気低下や業務負担の増大にも繋がります。採用とは、1人あたり数百万円を投資する経営判断。だからこそ、その投資が成功する確率を最大化する場として、面接を再定義する必要があります。
「本音」を引き出す対話型面接への転換
儀式的な面接を脱し、候補者の実像を捉えるための3つの具体的なステップをご紹介します。
1. 質問を「過去の行動事実」を問うものに変える
抽象的な質問(あなたの強みは?)から、具体的な行動事実を確認する「行動面接(BEI)」に切り替えます。
質問例:「これまでの業務で、あなたの強みである『主体性』が最も発揮された具体的なエピソードを教えてください。①どのような状況で、②あなたがやるべきことは何で、③具体的にどう行動し、④結果はどうなりましたか?」
■ 適切に答えられない場合、何がわかるか?
- 経験の不足:そもそも、その「強み」を発揮した経験がない。
- 自己分析能力の欠如:自分の行動を客観的に振り返り、構造化して説明する能力が低い。
- 他責傾向:成功体験を語る際に「チームのおかげ」に終始し、自分の貢献を具体的に説明できない。
いずれにせよ、再現性のある能力として備わってはいない可能性が高いと判断できます。
2. 回答を「深掘り」し真実性を確認する
候補者の回答を鵜呑みにせず、STARメソッド(Situation, Task, Action, Result)のフレームワークを使って、具体的な事実を掘り下げていきます。これは尋問ではなく、純粋な興味を示す対話の技術です。
■ 深掘り質問のテクニック
- 状況(Situation)の深掘り:「その時のチームは何人でしたか?」「プロジェクトの目標は何でしたか?」
→ 話の前提となる事実関係を固め、具体性を確認します。 - 役割(Task)の深掘り:「その中で、あなたの具体的な役割は何でしたか?」「他のメンバーは誰が何を?」
→ チームの成果と個人の貢献を切り分けさせます。「チームで頑張った」という話から、「自分が何をしたか」を明確にします。 - 行動(Action)の深掘り:「なぜその方法を選んだのですか?」「他に検討した選択肢はありましたか?」「その時、具体的に何と言って同僚を説得しましたか?」
→ 思考のプロセスや行動の意図を探ります。作り話の場合、この部分が一気に曖昧になります。 - 結果(Result)の深掘り:「その行動で、売上は具体的に何%上がりましたか?」「その経験から何を学び、次にどう活かしていますか?」
→ 定量的な成果と、経験から学ぶ学習能力を確認します。
これらの質問を重ねることで、話の解像度が上がり、一貫性や具体性があるかが見えてきます。作り話や誇張は、深掘りされると細部が破綻します。
3. 態度を「評価者」から「対話のパートナー」に変える
深掘りは、高圧的な態度で行うとただの尋問になります。大切なのは、心理的安全性を確保し、候補者が本音を話しやすい雰囲気を作ることです。
- 最初に「今日は評価の場というより、お互いを深く知る時間にしたいです」と伝え、場を和ませる。
- 候補者の話には頷きや相槌を打ち、「なるほど、大変でしたね」「その発想は面白いですね」と共感や関心を示す。
- 自社の良い面だけでなく、課題や改善点についても率直に話すことで、誠実な姿勢を見せ、信頼関係を築く。
候補者が「この会社はフェアに自分を見てくれる」「正直に話しても大丈夫そうだ」と感じることが、本音を引き出すための土台となります。
結論 – 機能する採用への道筋
優秀な人材の採用を成功させるために、まずは自社の面接が抱える課題を直視し、目的意識を持った対策を講じる必要があります。
多くの面接が、テンプレート化された質問と、候補者が用意した「建前の答え」を交換するだけの儀式と化している。データが示す通り、これは候補者の本質を見抜く上で大きな障壁となっている。
本音の対話がないまま採用に至るため、入社後に「こんなはずではなかった」というミスマッチが発生。結果として、採用コストが無駄になり、組織力が低下する。
面接の目的を「定着する戦力を見抜くこと」と再定義する。そのために、①過去の行動事実を問う質問で能力を測り、②STARメソッドで深掘りして話の真実性と再現性を確認し、③対話的な態度で心理的安全性を確保する。この3つの連動が、採用の成功確率を飛躍的に高める鍵となる。