AI時代、ホワイトカラーはもう「採用しない」?- 採用難を逆手に取る、新・組織設計

「人が採れない」という悩みが、多くの企業で聞かれます。しかし、生成AIが進化する今、問題は「どうやって採用するか」から「本当にその採用は必要か」へとシフトしています。本記事では、AIによるホワイトカラー業務の変化をデータで読み解き、採用難の時代だからこそ目指すべき、新しい組織の姿を提案します。

静かなる再編 – データが示す「ホワイトカラー需要」の減少

生成AIの登場は、オフィスワーカーの業務を根底から変えつつあります。これまで人間が時間をかけて行っていた情報収集、資料作成、データ入力といった定型業務は、急速にAIに代替されています。この変化は、すでに世界の雇用市場に明確な兆候として現れ始めています。

世界的な潮流と国内市場の兆候

海外の主要な調査機関は、この構造変化を具体的な数値で示しています。

米ゴールドマン・サックスは、生成AIが先進国における全仕事の約25%に影響を与え、世界で3億人分のフルタイムの仕事に相当する業務が自動化される可能性があると試算しています。

出典:Goldman Sachs “The Potentially Large Effects of Artificial Intelligence on Economic Growth” (2023)

世界経済フォーラム(WEF)の報告書では、今後5年間で「データ入力事務員」「秘書」「会計・経理事務員」といった職種が、AIによる自動化の影響で最も急速に減少すると予測されています。

出典:World Economic Forum “Future of Jobs Report 2023”

この潮流は、日本国内の労働市場にも影を落としています。人手不足が叫ばれる一方で、職種による需要のミスマッチが拡大しています。厚生労働省が発表する有効求人倍率を見ると、「事務的職業」の倍率は他の職種に比べて著しく低い水準で推移しており、企業の採用ニーズが定型業務から専門的業務へとシフトしていることが見て取れます。

「採用人数」から「採用機能」へ – AI時代の組織再設計

この現状は、採用に苦しむ日本企業にとって、実は大きなチャンスかもしれません。問題は「応募者の不足」ではなく、「時代遅れの業務内容」にある可能性があるからです。AIを前提とした組織を設計することで、そもそも多くの人員を必要としない、生産性の高いチームを作ることが可能になります。

目指すは「AIアシスタントを使いこなす少数精鋭チーム」

これからの組織設計は、「業務の棚卸し」から始まります。各部署の業務を一つひとつ分解し、「AIが得意な業務」と「人間にしかできないコア業務」に仕分けるのです。

  • AIが得意な業務:議事録作成、メールのドラフト、データ集計・分析、翻訳、市場調査の一次情報収集など、パターン化できる全ての情報処理業務。
  • 人間が担うべきコア業務:後述する、AIにはできない高度な判断や創造性が求められる業務。

この仕分けによって、例えばこれまで5人で行っていた業務が、「3人の人間+AIツール」で、より高い精度とスピードで遂行できるようになります。採用目標は「5人」から「3人」に減り、企業は本当に必要な人材の採用に集中できるのです。

これからの「採用必須」人材 – AIにはできないコア業務とは?

では、AI時代において、企業がコストをかけてでも採用すべき「コア業務」とは何でしょうか。それは、AIを優秀なアシスタントとして使いこなし、人間にしか生み出せない付加価値を創出する業務に集約されます。

AIが得意な業務(代替される業務) 人間が担うべきコア業務(採用すべき人材)
  • 情報検索と要約
  • データ入力・集計
  • 定型的な文章作成
  • 翻訳・文字起こし
  • 単純な顧客対応
  • 戦略的意思決定:事業の方向性を定め、経営資源の配分を最終判断する。
  • 創造的な問題解決:前例のない課題に対し、新しい解決策を発想・企画する。
  • 複雑な対人交渉・共感:キーパーソンとの信頼関係構築や、チームを動機付けるリーダーシップ。
  • 倫理的な判断:法律や倫理に基づき、複雑な状況で責任ある判断を下す。
  • AIの監督と活用:AIに的確な指示を出し、そのアウトプットを批判的に検証・活用する。

今後の採用活動は、「Excelが使える人」を探すのではなく、「AIを使ってデータ分析の結果から事業戦略を立案できる人」を探す活動へとシフトしていきます。

「採用難」だからこそ、少数精鋭の組織を目指す

「人が集まらない」と嘆く前に、まずは「本当にその仕事は、人がやるべきことか?」と問い直す視点が、今、すべての企業に求められています。生成AIの進化は、私たちに業務効率化の強力な武器を与えてくれました。

採用に苦しんでいる今だからこそ、AIの導入を前提とした業務プロセスの再設計に大胆に踏み切るべきです。採用目標の「量」を減らし、その分、人間にしかできないコア業務を担える優秀な人材の「質」に採用コストを集中させる。

そうして生まれた少数精鋭の「AI拡張チーム」は、従来の組織を遥かに凌ぐ生産性と創造性を発揮するでしょう。採用難の時代を乗り越える鍵は、社外にではなく、社内の業務設計の中にこそあるのです。

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