2050年、あなたの県は?― 人口推計で見る「採用消滅」リスクと未来の戦い方

日本の人手不足は、すべての地域で平等に進行するわけではありません。さらに、近年の少子化は政府機関の標準的な予測すら上回るペースで加速しています。
本記事では、公的機関である国立社会保障・人口問題研究所が発表した将来人口推計の中でも、より現実に近いとされる「低位推計(出生率などが悲観的なシナリオ)」のデータを基に、未来の採用リスクを分析します。

① 2050年、日本の人口は2割減。しかし…

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」の低位推計シナリオによると、2050年までに、日本の総人口は約21%も減少すると予測されています。これは、標準的な予測よりもさらに深刻な数値です。

そして、この人口減少の波は、地域によって全く異なる様相を見せます。例えば、2020年から2050年にかけて、東京都の人口減少率が約8.7%であるのに対し、秋田県では約45.5%と、人口が半分近くまで激減する見込みです。同様に、青森県(-43.5%)や岩手県(-39.6%)など、多くの地域で3割を超える人口が失われます。

これは、単なる市場の縮小ではありません。採用の母集団そのものが、多くの地域で”蒸発”に近い状態になることを意味します。この厳しい現実を直視することが、あらゆる戦略の出発点となります。

② 「働き手」の減少は3割超、5割減の地域も

企業の採用活動に最も深刻な影響を与えるのが、「生産年齢人口(15~64歳)」の減少です。この「働き手」の層は、総人口を遥かに上回るスピードで、まさに崖から転げ落ちるように減少していきます。

低位推計によると、全国の生産年齢人口は2050年までに約33%も減少します。下のグラフが示す通り、そのインパクトは地域によって甚大です。秋田県では働き手の55%、つまり半分以上が失われます。大都市圏である東京都ですら、23%もの働き手が減少する予測です。

生産年齢人口の減少率(2020年→2050年)※低位推計

これは、これまでと同じ採用手法、同じ労働条件では、必要な人材を確保することが完全に不可能になる未来を示唆しています。特に地方の中小企業にとっては、まさに「採用活動の消滅」にも繋がりかねない、極めて深刻な事態です。このグラフは、単なる数字の羅列ではなく、未来の企業経営における「人材獲得の難しさ」を視覚的に表現したものです。各地域でどれだけの「働き手」が失われるかを直視し、早急な対策の必要性を認識することが重要です。

③ 採用が「極めて困難になる」都道府県とは

このより厳しい「低位推計」データを基に、採用難易度が特に高まると予測される地域を再分類します。それぞれの地域が直面する現実を理解し、先手を打つための戦略を立てましょう。

A. 最も深刻度が高い地域(東北・四国・中国地方など)

秋田県、青森県、高知県、島根県など、生産年齢人口が4割以上も減少する地域です。これらの地域では、地域経済の担い手が急激に失われ、もはや事業の維持自体が困難になる深刻なリスクに直面します。

**【企業が直面する現実と対策の方向性】**
このグループの企業は、既存の採用手法では立ち行かなくなる「採用消滅」のリスクに最も近づいています。もはや地域内での人材確保は限界に近く、「域外から人材をいかに呼び込むか」という越境採用の成否が、企業の存続を左右します。Uターン・Iターン促進のための積極的な情報発信、移住支援制度の強化、あるいは完全なフルリモートワークの導入による全国からの採用、そして外国人材の積極的な活用が不可欠です。また、地域の複数企業が連携して人材をシェアする仕組みや、地域外でのプロモーションを強化することも視野に入れるべきでしょう。

B. 隠れたリスクを抱える地域(北関東・日本海側など)

生産年齢人口が3割台の減少となる地域です。一見するとまだ余裕があるように見えますが、これは「隠れたリスク」であり、対策を怠れば数年後にはAグループと同様の深刻な働き手不足に直面する可能性が高いです。特に、若年層の大都市圏への流出が加速することで、年齢構成の歪みが急速に進むでしょう。

**【企業が直面する現実と対策の方向性】**
このグループの企業は、まさに「今」が最後のチャンスです。本格的な人材枯渇に陥る前に、徹底したDX(デジタルトランスフォーメーション)による省人化投資や、現有社員の生産性向上が急務となります。さらに、地域内の人材を大切にし、定着率を高めるための働きがい向上、明確なキャリアパスの提示、高齢者・子育て中の女性が働き続けられる柔軟な制度(短時間勤務、在宅勤務、バリアフリーな職場環境など)の整備が不可欠です。隣接する大都市圏からの越境通勤や、地域特有の魅力を活かした採用プロモーションも有効です。

C. 影響は緩やかだが、競争が激化する地域(大都市圏)

東京都、神奈川県、愛知県、沖縄県など、人口減少が2割台に留まる地域です。総人口の減少率は比較的緩やかですが、これらの地域には企業が過密に集中するため、限られた優秀な人材を奪い合う熾烈な競争がさらに激化します。地方からの人材流入も期待できなくなるため、結局は厳しい「採用難」の現実に直面します。

**【企業が直面する現実と対策の方向性】**
大都市圏の企業は、高額な採用コスト競争から抜け出すために、採用ブランドの確立と非金銭的魅力の強化が極めて重要になります。企業のパーパス(存在意義)や独自の文化、ワークライフバランスの充実、社員の成長機会の提供など、給与以外の「ここで働きたい」と思わせる要素を明確に打ち出す必要があります。多様な採用チャネルを組み合わせた「ポートフォリオ戦略」の徹底、AIを活用した採用テクノロジーの導入による効率化も、激化する競争を生き抜くために不可欠な戦略となるでしょう。

④ より厳しい未来に企業がとるべき戦略

より厳しい未来予測を前に、これまで以上に大胆で迅速な対策が求められます。「人口が減るから仕方ない」と諦めるのではなく、これを機に、旧来の経営や採用のあり方を抜本的に見直す必要があります。もはや「人が来るのを待つ」だけの採用は通用しません。積極的に未来を創造するための戦略が必要です。

  • DXによる徹底的な生産性向上
    少ない人数で高い付加価値を生み出す体制への転換は急務です。定型業務の自動化、AIを活用したデータ分析、情報共有のデジタル化などを進め、社員が付加価値の高いコア業務に集中できる環境を整えましょう。これにより、一人ひとりの生産性を最大化し、少人数でも事業を回せる組織を構築します。
  • 多様な人材の活躍推進
    これまでの労働市場の中心と見なされてこなかった、意欲あるシニア層(65歳以上)、子育て中の女性、外国人材などを積極的に活用する制度設計が不可欠です。短時間勤務、柔軟なシフト、在宅勤務制度、バリアフリーな職場環境の整備、多言語対応など、多様な背景を持つ人材が能力を最大限に発揮できるような環境を整えることが、新たな労働力の確保に繋がります。
  • 採用エリアの「越境」
    自社の地域内だけで人材を探す時代は終わりました。地域による人口減少の差が拡大する中で、フルリモートワークの導入やサテライトオフィスの設置、あるいは地方からの移住支援制度を充実させ、全国から、さらには海外から人材を呼び込む「攻めの採用」へと転換する必要があります。これは、地域の人材プールが枯渇する企業にとって、唯一の活路となり得ます。
  • 待遇の「全国水準化」
    「地方だから給与が安い」「地方だから残業が多いのは仕方ない」という考え方は、もはや通用しません。リモートワークが普及し、働く場所を選べる時代においては、給与水準、年間休日、福利厚生などもすべて全国の競合と比較されます。自社の提示する条件が、全国的に見て魅力的であるかどうかを常に問い直し、必要であれば大胆な待遇改善も視野に入れるべきです。これは、人材定着と獲得のための最低限の投資となります。
人口動態というマクロな変化は、一企業の努力で変えることはできません。
しかし、その変化を前提として、自社のビジネスモデルや採用戦略を誰よりも早く変革することは可能です。未来を悲観するのではなく、変革の好機と捉える。その視点こそが、これからの時代を生き抜く鍵となります。
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